ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

土地の相続で考えたこと

 相続税の申告の準備をしているが、少々難儀もしている。税理士に頼めばよかったのだが、行きがかかり上、自力でやることになり、預貯金や自宅だけなら「素人」でも、税務署のマニュアルに従って何とかできそうな感じはあったが、田や畑、借地など土地が絡むと複雑な要素がいろいろとあることがだんだんわかってきて慌てだした。ある税理士のHPを眺めていたら「土地にはひとつとして同じ土地はない」と書いてあり、最初は大げさな感じがしたが、今はなるほどなと思う。

 遺産の土地のなかに父親を含む16人の共有地というのがある。いびつな花瓶のような輪郭をした土地で、法務局に行って調べると、分筆と合筆、相続・売買が積み重なり、出てきた登記事項証明書は分厚いものだった。なぜ、共有なのか、変だなと思ったが、公図を眺めると、その奥に父親の所有地の畑があるので、そこに行くまでの「私道」が必要となり、周りの土地の所有者と相談して共通の通り道を確保したということなのだろう。もっとも、父親にしても、この権利は相続しただけで、元々は先祖の誰かの代から始まったことで、事の詳細を把握していたかどうかはわからない。小生の子どもの頃の記憶では、奥のその畑ではキャベツをつくっていたはずで、通り道は別ルートだったような気がする。しかし、今は周辺が宅地開発され、家も十数軒建っている。住民はこの「私道」を通って表の道路に出ているわけで、彼らにとっては、ここは「公道」であって、よもや誰かの(複数の)所有地で、そこを通らせてもらっているという認識はないだろう。
 16人の共有とはいえ、今は互いのことなど知らないだろう。実際、登記事項を眺めて名前を見ても、どこの誰なのかわからない。すでに周囲の土地は「切り売り」されて状況は一変してしまったが、今までのところ、特に問題もなく推移してきた。お互いに知らないことが幸いしているかもしれない。しかし、もし、これが誰か一人の所有地で、どこぞやの地権者のように、通行料を払わなければ通らせないと、通りを封鎖でもしたら…などと、妙なことも考えてしまう。

 世の中には曖昧でグレーなままにしておいた方がいいこともある。若い時分はこんなのは責任逃れの先送りとしか思えなかったが、今は人間社会のひとつの知恵だと思う。土地の所有については、所有は権利という考え方がある。生きた個人でなくても、法人や国でもそれは可能で、そこまではいいとしても、これに「絶対不可侵」とか「排他的」という装飾をして、その通りにしようとするとトラブルの素になることもある。
 これは所有というよりは「領有」だが、領土問題などはその最たる例で、白黒をはっきりさせようとすると、かえってやぶへびになる。「北方領土」はもちろん現ロシアの前身ソ連による第二次大戦末期の不法占領に端を発する問題だが、その後元の島民と四島の間でせっかく相互交流を通じて信頼関係を築いてきたのに、安倍外交の結果は、状況の打開を今や極めて難しいものにしている。尖閣問題にしても「国有化宣言」がなければ、今日のような日中関係になっていたかどうかわからない。実利をともなわない一方的な思い入れの表明や面目は、対立感情を顕在化させ事態をこじらせるだけのように思える。

 もうひとつ、「絶対不可侵」「排他的」と銘打った土地所有は、確定された範囲内で土地を自由に利用し処分する権利があることを意味すると同時に、そこには排他的管理責任(自己責任)があることも意味している。まさに自由と責任の関係である。しかし、年々荒れ地が広がっていく田畑を見るにつけ、果たして、「排他的」所有権を付された個人がその責任を果たせるのかと思う。小生などは畑に生える草を取り木々の剪定をする程度だが、高齢化が進めばだんだんそれさえままならなくなるだろう。町内会で近所の側溝の掃除をする場合、出て来られないお年寄りの自宅脇の側溝を、来てないからといって、そこだけそのままになどは普通はしない。みんなでやるだろう。そういう「おせっかい」が排他的土地所有の場合、どこまで可能か。
 耕作や管理が放棄された土地を相続した人はどうするか。土地をどこかに売れるのなら売るかも知れないが、そうでなければ固定資産税だけ負担してそのままである。これは、農村部だけの話ではなく、都市部の空き家も同様で、問題の根は同じだ。結局、大きな組織が収用し、もし、それが企業体でなく自治体や国であったとしても、それを媒介にして、大資本に払い下げて…というような展開も予想する。今さかんに地籍調査が進められているのは、そういう展開を見越しているからではないかと疑念を抱く。まあでも、これはまだ「妄想」の類いだと思いたいが…。

 昨日父親から畑地を借りて家庭菜園をしているご夫婦が来宅して「歳暮」をおいていった。もう、父親はいないし、こちらは、狭い畑とはいえ荒れ地にしないで(草を取るなど管理してもらって)助かってるから、そんなに気を遣わなくてもいいと思うのだが、ご夫婦からすると、父親に世話になったし、何よりも全くのタダってわけにはいかないというところだろう。しかしこれを、人の土地を使ってるんだから当然地代を払うべきだと言って、賃借関係にでもしたら状況は一変するだろう(地代なんてたいした額にならないと思うが)。もし企業心とか意欲でもあれば、そういうことを考えるかも知れないが、まあこのままグレーでいいんじゃないかなと思う。




 
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