ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

“安直” 内閣の発足

 かつて田中角栄の後ろ盾で成立した中曽根内閣は「田中曽根内閣」とか「直角内閣」と揶揄された。今やアベシンゾーの「院政」の下に始まった岸田新総裁の「組閣」の動向を見て(正式にはまだ総理ではないが)、政治学者の水島朝穂さんは、「岸田内閣ではなく、『岸内閣』になってしまうおそれがある」と書いている(言わずもがなだが、岸(信介)はアベシンゾーの祖父で、ここではアベの意)。さしずめ「(田)内閣(きしカッコづきないかく)」、あるいは「“安直” 内閣(アンチョクないかく)」といったところか。ちなみに、岸田は水島さんが早稲田の大学院生のときに法学部に入学してきた「後輩」にあたるらしい。
 それにしても、幹事長以下、よくもここまで「ゾンビ」たちを復活・復権させるものだ。あのスシロー氏でさえ、甘利幹事長について聞かれて、「それはない」と言っていたのだ!
 テレビ画面に地震などの情報と並び、速報で誰が〇〇大臣に内定か、といったテロップが流れても、一般国民にはこれらに何の緊急性があるのかよくわからない。叙位に一喜一憂する平安貴族のごとき一部の自民党関係者にしか、こんな情報は必要ではないだろう。

 以下、水島さんの評をHP「平和憲法のメッセージ」より引用させていただく。

平和憲法のメッセージ

 岸田総裁のもとでの党人事、岸田内閣総理大臣としての組閣は、まさに「安倍院政」の様相を強めている。本稿執筆時点(10月1日)で、党役員人事で真っ先に決まったのは、「甘利明幹事長」だった。これには仰天した。忘れもしない。…5年前…当時は経済再生担当大臣。独立行政法人都市再生機構(UR)との補償交渉をしていた千葉県の建設業者から100万円(元公設秘書が500万円)を受け取ったことについて、口利きの事実は否定しつつも、現金授受については「記憶が確かでない」と曖昧にし続けた。大臣室での現金授受という疑惑について、国会での答弁を避けて、結局、「睡眠障害」という診断書を使って逃亡した(『朝日新聞』2016年2月16日付夕刊)。
…安倍政権下で辞任した閣僚のラインナップ…甘利のほかには、小渕優子の辞任が生々しい(#ドリル優子で検索)。細田派の高木毅・元復興大臣の国会対策委員長起用については、これが「適材適所」ならば、野党を馬鹿にした人事としかいいようがない(高木の「華麗な経歴」について『毎日新聞』9月30日付参照)。民主党政権下の2011~12年に国会対策委員長をやった岸田ならば、野党との駆け引きを含めて、高木ではもたないことはおそらくわかっているのではないか。「人の話をしっかり聞くこと」が特技?の岸田ゆえに、細田派(安倍)の声を聞きすぎたというところだろう。

政治は数、数は力、力は金、そして金はポスト
総裁選の「論功行賞」で、過去に辞任したり、逃亡したりした政治屋たちが閣僚や党の枢要なポストを占めていく。田中角栄の「名言」ではないが、政治は数なり、数は力なり、力は金なり、である。この連鎖の基軸が人事、ポストである。総裁選で見せつけられたのは、大臣ポスト(それ以下の副大臣政務官等々の人事)欲しさの、政治屋たちの「仁義なきたたかい」である。2回もトップの座を投げ出した安倍は怖いものなしで、派閥を超えて、個々の議員に「裏の人事権」を行使している。
「岸田人事」には安倍の意向が強く働いている。若手と女性の積極登用も、閣僚や政府の人事で行われていくだろう。本稿執筆時点での「サプライズ」は、当選回数3回の「福田達夫総務会長」人事である。自民党4役というが、総務会長はきわめて重要な役割をもっている。さまざまな利害を調整して、国会に出す法案から閣議決定の内容まで、党内手続の最終段階にある組織である。総務は総理大臣経験者など大物が入る。かつて総務会は全会一致を原則とし、数時間の議論の末、それでも反対する議員は退席する伝統をつくった。自民党の強さは、この総務会の決定前の稟議と根回しに支えられていた。それを「ぶっ壊した」のが小泉純一郎である。2005年の郵政民営化の際、民営化法案には党内の反対が強く、全会一致にはならず、怒号のなかでの多数決となった。多数決は決してしない総務会が壊れた瞬間だった。その時の総務会長、堀内光雄は、著書『自民党は殺された!』(ワック、2006年)でそれをリアルに描写している。安倍・菅政権以降の総務会にはほとんど力がなくなって、総務会長も軽量級になっていった。「こんな若くて総務会長が務まるか」というのは、小泉政権以前の自民党の話で、「福田総務会長」は今の自民党を象徴しているといえなくもない。
女性の登用でもいろいろと目立ったことをしてくるだろうが、高市の扱いに見られるように、「アベ的なるもの」にコントロールされた岸田の「裁量」はきわめて狭くなるだろう。とはいえ、サンケイ系『夕刊フジ』10月2日付(1日夕方発売)1面トップが「高市封じ――岸田人事激震」と八つ当たりしているように、高市政調会長ポストに右派は不満のようである。

……

総選挙後に安倍院政は終わる?
 10月4日に臨時国会が召集され、岸田が内閣総理大臣に指名される。32年前の海部俊樹内閣と同様、主要派閥(海部の時は旧竹下派)のコントロール下での組閣になりそうだ。国民は、「エーッ、この人が○○大臣!?」という仰天の人事を見せられることになる。『南ドイツ新聞』10月1日(デジタル版)は、「背後にナショナリスト」という見出しで、総裁選で投票する安倍の写真を使っている。このまま安倍「院政」が始まれば、組閣の結果、岸田内閣ではなく、「岸内閣」になってしまうおそれがある。三木武夫のように大化けして、「アベ的なるもの」を切るかどうか。岸田がそれを行うため、いまは低姿勢で、安倍の声を丸飲みしているのであって、そういう「戦略」があるのだと期待するのはやめておこう。「ヘタレ」で終わった時の脱力感が大きくなるから。ただ、岸田が総裁選立候補の際、きりっとした顔で、「新自由主義的政策からの転換」を宣言したこと、党役員を1期1年、連続3期までとして、二階俊博幹事長の怒りをかった事実はしっかり記憶しておこう。自分の言葉にこれから縛られ続ける。これが政治家の宿命だからである。
 長期にわたって臨時国会の召集をしないという違憲状態を続けてきて、10月4日に召集する。それも総理大臣指名のために。安倍・菅両政権の特徴は、とにかく国会が嫌いなことである。特に予算委員会での追及が苦手な首相たちだったが、岸田もそれにならうのか。本会議での所信表明演説と野党の代表質問で打ち止めにして、予算委員会での追及でボロが出てくる前に衆議院を解散してしまう。その方向となるならば問題は根深い。
  ここは有権者の判断のしどころである。国民の忘却力(忘れっぽさ) に依拠して、安倍的統治手法が続いてきた。あと2カ月あまりで安倍・菅政権の9周年を迎える。もうリセットする時である。選挙では、自分が支持できそうな候補者を「選ぶ」のではなく、安倍院政権の側にいる候補者を「選ばない」という投票行動が求められている。「選択しない選択」である。

 11月、みんなで投票に行って意思を示さないといけない。いつまでこんな愚かな政治を続けて未来を暗くするのかと。

<追記>
岸田は10月31日投開票で総選挙をする意向と伝えられた。まさに「ハロウィーン総選挙」となるようだ。

 
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