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日常と世相の記

「従軍慰安婦」から「従軍」を削除すること

 先週新聞を読んでいて小さな記事が気になってはいた。中学・高校の社会科教科書の記述から「従軍慰安婦」の「従軍」が削除されるというのである。

慰安婦「従軍」を削除 教科書訂正を承認 文科省 | 毎日新聞
「従軍慰安婦」「強制連行」5社が教科書訂正 政府答弁受け:朝日新聞デジタル

「従軍」の文言をとることは、「慰安婦」が軍(国)による「強制」によるものだったという認識を否定することである。上の朝日新聞9月8日付記事にはこうある。

政府は4月27日、「『従軍慰安婦』または『いわゆる従軍慰安婦』ではなく、単に『慰安婦』という用語を用いることが適切」との答弁書閣議決定。一方、「いわゆる従軍慰安婦」という用語を使った1993年の河野洋平官房長官談話は「継承」する立場も記した。

 軍の強制性を認める「河野談話」を「継承」しながら、「従軍」を削るのは自己矛盾であり欺瞞だ。この点を、哲学系YouTuberの「じゅんちゃん」さんが9月11日付の動画で明確に指摘している。

菅政権の思想統制で教科書から「従軍慰安婦」との記載を削除。。しかし理由が無茶苦茶 - YouTube

曰く、
 …教科書の記述を変えるのであれば、「河野談話」と呼ばれるものは「継承しない」という立場をとるべきなんです。…と思いきや、政府は(維新・馬場伸幸議員の質問に対し)「政府の基本的立場は平成5年8月4日の内閣官房長官の談話を継承しているものである」と答弁書に書いてるんです。この平成5年8月4日の内閣官房長官談話というのが「河野談話」なんですが、これ、…安倍晋三先生も自らの政権時代に継承すると述べているんですね。菅政権における今回の閣議決定でも、「河野談話」は継承するという立場なんです。私は全然歴史の専門家ではないんですが、この「河野談話」を踏襲しながら、先ほどの「従軍慰安婦」の「従軍」という言葉や、朝鮮人の強制連行や強制労働などの表現を削除・変更するというのは、ほんとに意味が不明です。
 「河野談話」をちょっと読み返せばわかるんですが、始まりはこんな感じなんです。

「いわゆる従軍慰安婦問題については、政府は、一昨年12月より、調査を進めて来たが、今般その結果がまとまったので発表することとした。 今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。 なお、戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。 いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。」
 ※太字・下線は当方が施したもの。
と言ってるんです。
 これを読んで、日本軍の介在によって現地の人が望まぬ慰安婦政策に駆り出されたと読めない人はたぶんいないと思うんですよ。これが事実かどうか、嘘か本当か、というのが今問題なのではなくて、これを読んだら、強制的に、望まぬかたちで「慰安婦」と呼ばれるものがつくられ、そこに人が動員されたというのは、誰が読んでもわかると思うんです。
 だから、「河野談話」を破棄した上で、今回のこういうことをやるんならまだわかるんですけど、政府はこれを踏襲するって言いながら今回訳のわからないことをしているんです。

 これは、憲法の条文を変えずに中身を骨抜きにする手法とまったく同じだと思う。こうした「意味不明」で「訳のわからないこと」が平気でできるのは、思考停止で非論理的というのもあるかもしれないが、そもそもの体質が媚びへつらいの裏返しとしての有無を言わさぬ暴力性をもつことと、そして、何よりも本質的に悪辣だからだと思う。
 
 「河野談話」は次のように続く。
慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話
われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。

 

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