ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

東京五輪公式グッズのこと

 五輪の公式グッズの売れ行きが芳しくないという記事を見た。

 むかしロサンゼルス・オリンピックの開幕前に公式マスコットのイーグルサムのワッペンが胸についたTシャツを買ったことがある。当時、すでに商業五輪への批判の声も耳にしていたが、オリンピックを見るのは好きだったし、カンパの気持ちもあった。値段は確か1,500円くらいでやや高かった記憶がある。1回洗濯しただけでワッペンがひび割れしたのにはがっかりしたが、まあ、そういうものかと当時は思った。

 そういえば、2週間前に行った丸の内オアゾ・ビル内の丸善の2階に五輪グッズの販売コーナーがあったことを思い出した。確かエスカレーターで上がっていった正面にあったはずで、お客さんも何人か見えたが、混雑している様子はなかった。もっとも、そのとき書店の中自体がそんなに混んではいなかったから、普段の様子と比較はできないが…。

 興味本位でどんなグッズがあるのか、値段なども調べてみた。キーホルダーが1,000円から2,000円、Tシャツが3,000円、ぬいぐるみが3,000円から6,000円、…万国旗入りマスクは1,200円もする。この「応援マスク」のキャッチコピーには、

 ・「 ホスト国として 海外のサポーターの分まで応援しよう!」
 ・「男女兼用 伸びる素材なので安心。思い切って応援しよう!」
 ・「もちろん、日本代表の応援にも使えます!」
 ・「オリンピック期間中の普段使いに マスクでオリンピックを応援」
 ・「感染対策をしながら応援しよう」
 

などの文言が並ぶ。こんな状況でなければ目にとまることもなかっただろうなと思う。

 6月24日付AERA dot.の國府田英之氏の記事より引用する。

売れぬ五輪グッズに“かん口令”? メーカー悲痛「大量のゴミと化すことを覚悟」 (1/3) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

 東京五輪パラリンピック組織委員会とライセンス契約を結び、公式グッズを製造するメーカーは約90社ある。
 メーカーは小売価格の5~7パーセントをロイヤリティー(権利使用料)として組織委員会に支払う仕組みだ。実際に売れた数ではなく、製造数に応じたロイヤリティーが生じる。さらに小売価格の2パーセントを、販売促進支援のための経費として支払う。
 複数のメーカーに売り上げの現状を尋ねたが、厳しい状況をにおわせつつも「組織委を通して許可を得てからではないと、取材に応じられません」「話せないことになっている」などと回答を控える担当者が多かった。
 匿名を条件に答えてくれたあるメーカーの担当者は昨年の春ごろ、組織委から連絡を受け「グッズの売れ行きに関することは外部に言わないように」という趣旨の“かん口令”を敷かれたという。「突然の連絡でしたし、文書で通知を受けたわけではなく口頭だったので真意は図りかねますが、時期も時期でしたので、五輪に関してマイナスなことは言わないようにという『口止め』のような印象を受けましたね」
 この担当者はグッズの売れ行きについて、暗い見通しを口にする。
「弊社では数万点のグッズを準備しましたが、当初目標の3分の1でも売れてくれれば万々歳だと思っています。ただ、海外からの観光客が見込めず、国内でもこれだけ五輪反対の人が多い中では3分の1ですら難しいでしょうね。詳細な数字は明かせませんが、大量の売れ残りが出てゴミになることは覚悟していますし、相当な額の赤字が生じることは確実です」
……
 事実、6月19、20日の土日に都内や近県の公式グッズを扱う店舗を訪れたが、どこも客足はまばらだった。趣向を凝らした衣料品や食器、文具や工芸品など多種多様なグッズが並ぶが、手に取る人は少なく、ぬいぐるみたちもどこか寂しげだ。
「応援グッズなどが少しずつ売れてきてはいますが、なかなかお客さんに来てもらえません。大会が始まったらもう少し上向くと期待してはいますが……」
 と店員の表情はさえない。

マスクを購入した40代の男性の思いは複雑だ。
「選手たちを応援したいので、ランニングの時に使おうと買いました。ただ、電車だとか公共の場では着けないと思います。これだけ反対論が強い中で、五輪を応援しているってオープンにはしづらいし、もし医療従事者の方が見たらどう思うだろうかって考えてしまいます」
 日用品を購入ついでに小学生の長男とたまたま立ち寄った30代の主婦は、さらに手厳しい。
「かわいいグッズが多いので売れ残っちゃったらかわいそうですよね。ただ、五輪やるなら子どもの運動会も自由にやらせてよって、納得がいかない思いも持っています。首相や小池さん(都知事)たちが『五輪をやらせてください』って頭を下げるなら、支えようかなって思う人も出るかもしれませんけど、いろんな声を無視して勝手に突き進んでいる感じですし。周りのママ友も反対の人が多いので、何を買うか買わないかはまた考えたいと思います」

 五輪が始まったら少しは売れてほしい、メーカーの思いは切実だ。別のメーカーの関係者はライセンス契約上、自由な宣伝活動ができないことになっていると説明した上で、こんな希望を口にする。
「廃棄は避けられないとはいえ、少しでも減らしたいのが本音です。五輪終了後は商品の宣伝を自由にしたり、大幅な値引き販売を許可するなど、組織委には柔軟な対応をお願いしたい」……

 マルクスの『資本論』の言葉を思い出す。
「商品価値が商品の肉体から金(きん)の肉体へと飛び移ることは……商品の“命がけの宙返り(飛躍)”である。もし、失敗すれば、なるほど商品は無傷であろうが、商品の持ち主が傷つく」筑摩書房版160頁、 ほか)

 グッズのデザインや機能自体に何か問題や瑕疵があるわけではない。「TOKYO 2020」の刻みがあることがこの商品に呪いをかけている。そして、売れなければそれらは廃棄せざるを得ない。
 “命がけの宙返り(飛躍)”――「宙返り」をしているのは商品なのに、「命がけ」なのは商品ではない。何か唸らされる一言だ。




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