ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「土地規制法案」は廃案にすべし

 外国資本による土地の買い占めが云々…と喧伝された「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案」――うんざりしてくるので「土地規制法案」と略するが、6月4日に参議院に送られたばかりのこの法案、明日16日の国会会期末をにらみ、与党は成立に突き進んでいるが、内容に非常に問題が多く、危険な法案だと思う。

 昨日の参院内閣委員会に参考人として出席した弁護士の馬奈木厳太郎の意見陳述や論考を拝見し、その感を強くした。

 以下、馬奈木氏の意見陳述(動画)から起こしたものを引用する。

参議院 2021年06月14日 内閣委員会 #04 馬奈木厳太郎(参考人 弁護士) - YouTube

 法案に対する私の印象を述べておきたいと思います。
 この法案は大体において4つの言葉から成り立っています。「内閣総理大臣」「等」「その他」「できる」であります。たとえば、「内閣総理大臣は〇〇について、〇〇、その他の〇〇に対して〇〇することができる。」といった感じです。「等」や「その他」といった幅を持たせる表現が多いです。何より「内閣総理大臣」という主語が圧倒的に多い。28ヵ条の条文の中に何と33回も出てきます。その結果、この法案は国民の権利を保障するものではなく、政府に権限を与える行政命令のような内容になっています。いわば、内閣総理大臣の、内閣総理大臣による、内閣総理大臣のための法案という印象を抱かざるを得ません。

<中略>
 法案では、止められる人や止められる機関がありません。事後的に検証できる制度も設けられていません。その意味で、この法案は公正とは言えません。どのような調査が、誰に対して、どんな手法で、いかなる協力を求めているのか、何を「機能阻害行為」としているのか、そういった事柄を第三者機関がチェックし、場合によっては止めるという手段が必要なのではないでしょうか。法案は「閣議決定で定める」「政令で定める」「府令で定める」「必要があると認めるとき」、こういった文言のオンパレードになっています。国会の関与もなく、独立した第三者機関の関与もなく、調査対象者に調査の事実を告げるわけでもありません。この法案は全幅の信頼を政府に寄せるといったことを国民に求めています。しかし、立憲主義の大原則は、権力は暴走することがあるというものです。ですから、主権者である国民は、権力を監視し、チェックしなければならないのです。法案は政府が国民を調査し、監視できるかのような内容になっており、完全に顚倒しています。……

 最後に…沖縄について触れないわけにはいきません。法案によれば、沖縄県内の人が住んでいる島は、沖縄島を含めてすべてが「国境離島等」に含まれており、「国境離島」の場合には1キロの制限なく区域指定できることから、その気になれば沖縄県全域を区域指定できます。つまり、沖縄県民をまるごと調査対象にすることができるということです。安全保障の名目で、県民を監視下におくかのような発想は、まるで戦前のようであります。
 ……沖縄は長年基地被害に苦しんできました。つい先日も米軍の不時着があり、有機フッ素化合物による被害も出ていました。ある学校では、米軍機が飛来すると校庭の生徒が避難しなければならない日常にあります。政府は口を開けば「負担軽減」と言います。しかし、この法案は全く負担軽減にはなりません。その逆です。この法案が成立すると、最も影響を受けるのは、まちがいなく沖縄です。沖縄の人々は選挙権が停止されていたため、日本国憲法の制定に制度的にはかかわることができませんでした。米軍統治の下、銃剣とブルドーザーで土地を収用されながらも、サンマ裁判と呼ばれる闘いを経て、民主主義や自治を粘り強く獲得してきました。沖縄の民意や自治をまた踏みにじるのですか? そんなことが許されていいのですか? 私は恥ずかしさと悔しさでいっぱいであります。こんな政府丸投げ法案を成立させれば、国会は何のためにあるのか、という話になると思います。まだ間に合います。いったん法案を取り下げませんか?
 この法案は複数の考え方を無理に一つにしたことに問題の原因があります。その問題は「機能」という言葉に象徴され、「調査」という言葉の意味を分裂させています。すなわち、国境離島の実態調査に問題意識がある人と、防衛施設の機能確保に問題意識がある人がいて、さらには、原発もと言う欲張りな人がいて、無理矢理合体させたのがこの法案です。国境周辺の離島の実態調査と、都市部も含む防衛施設周辺の実態調査とでは、まるで意味が違います。そこを「機能」という言葉で無理につなぎ、軍事的合理性だけで突っ走ったから、本当にひどい法案になっています。みなさんもほんとうはわかってらっしゃるのではないでしょうか? 急がなければならない事情はないはずです。しかも、安全保障にかかわるのであれば、より多くの人の納得と合意のもと、進められるべきです。…

 馬奈木氏は「論座」の6月2日付記事の中でもこう書いている。

矛盾深まる土地規制法案――数百万人の私権制限の恐れ。入管法に続き廃案しかない - 馬奈木厳太郎|論座 - 朝日新聞社の言論サイト
 
この間、沖縄県などは米軍基地の存在によって多大な犠牲を強いられ、多くの被害が出ています。最近も、米軍関係者による犯罪は続いていますし、米軍機の墜落や部品、窓などの落下物、騒音などの被害に加えて、有機フッ素化合物の流出の問題もあります。こうした被害から地域住民を守るのではなく、むしろ基地の方を守り、周辺の住民を調査対象にしようとする姿勢には、強い反発が示されています。
 内閣委員会での審議で、沖縄県選出の赤嶺政賢議員は、「基地からの被害を受けている人たちは、基地機能の阻害の加害者の対象になる前に基地からの被害者だ」、「基地からの被害者が加害者として監視される、そういう性格を持った法律になっている」、「何よりも基地周辺の住民が、基地からの加害に対して反対の感情を増していく、こんなことで安全保障なんて存立できませんよ」と述べました。
 加害者と被害者の転倒、守るべきものの優先順位の転倒がここには如実に示されていると思います。


 「独裁」と聞くと、一人の人間が何でも決めるかのようなイメージがあるが、内閣が閣議決定だけで突っ走れば、それは十分「独裁」なわけで、ヒトラースターリンのような「独裁者」がいなくても「独裁」は起こりうる。要は、そうした決定(判断)や権限をチェックできないこと、暴走を止められないこと。国会はその重要なチェック機関なのに、その責務を果たせない(果たさない)、そうなってしまうこと、これが「独裁」だとすれば、アベスが政権のやってることはほぼこれに近い。

 そもそも、いろいろと瑕疵の多い法案をなぜ10日余りという短期間で無理に通さなければならないのか。読めば読むほど、行政裁量ばかりが大きく、国民に利益のないこの法案。外国資本を「敵」に見立てるのはカモフラージュで、実際に政府が敵視(警戒)しているのは別ものであることが読み取れる。

 国会の会期は明日までだが、こんな法案は通してはいけない。




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