ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

福島第一原発の汚染水処理について

 政府が決定した福島の汚染(処理)水の海洋放出の方針決定で、損害を受けるのは漁業関係者だけではないと思う。これを「風評」とか補償などというレベルの問題だけで語らせてはいけない。海が世界につながっているのはもちろんだが、原発事故とか放射能汚染という問題自体が国境に閉ざされた世界の話では済まない。この件で日本国と日本人は国際的な非難を浴び、在外邦人は針の筵におかれているのではないかと想像する。

 たとえば、イタリア在住のホテルとバーの経営者のtweet
https://twitter.com/sashatax/status/1381869311107686402

 一昨日の4月13日、首相官邸前で行われた抗議集会には、アメリカのAP、フランスのAFP、中国・中央電視台、韓国・SBSなどが取材に来ていたとジャーナリストの田中龍作氏が伝えている。
田中龍作ジャーナル | 世界のメディアが呆れる海洋投棄の決定

 本田由紀さんのTweetには、2021年3月11日付のジュネーヴの国連の人権専門家のコメントがある。「福島第一原子力発電所に現在も残る汚染水は、環境と人権に大きな危険を及ぼすものであり、汚染水を太平洋に放出するという決定はいかなるものであっても容認できる解決策ではない」。
https://twitter.com/hahaguma/status/1382119908322934787

 海洋放出に反対する国として中国と韓国だけをメディアが取り上げるのも作為的だ。嫌中嫌韓感情を煽って、ことの本質を見誤らせようという意図が見える。アソーの妄言を受けた中国外務省報道官の「(処理水を)飲めるというなら飲んでみてほしい」と同じことを、もし、アメリカのサキ報道官が言ったら(まあ、言わないと思うが)、日本の一般の反応は全然ちがったものになるだろう。

 「風評被害」という文言を繰り返すのも問題を矮小化させようとする感じがする。これは「風評」、すなわち、「根拠のない噂」のために生じる被害ではない。「根拠」があるからこそ問題なのだ。それを「風評」と一蹴し、害がないのにわざわざ騒ぎ立てる輩がいるから事が前に進まないかのように仕向ける。しかし、海に流せば、被害者は国民全般だし、周辺各国の人々や世界にとってもそれが害悪になると自然に受け止めることを阻害し、ものを考えないようにさせる。

 これは難しい政治課題であることは確かだ。すべの人が満足する判断を下すのは難しいと思う。それでもぎりぎりのところで合意を形成するのが政治の役割のはずだ。今回の海洋放出の判断にはそれが欠けている。そもそも6年前の合意を反故にする強行突破であり、そのことだけでも政治の自壊行為である。

 以下、昨日(4月14日)の参議院資源エネルギーに関する調査会での山添拓議員(共産党)の質問と答弁の引用。 答弁が時間稼ぎのペーパーの棒読みの場合は要旨だけにしてある。

参議院 2021年04月14日 資源エネルギーに関する調査会 #08 山添拓(日本共産党) - YouTube

 山添:……政府は昨日(13日)福島第一原発における汚染水、ALPS(多核種除去設備)処理水の海洋放出を決めました。政府や東電は2015年に「関係者の理解なしに汚染水のいかなる処分も行わない」と文書で回答しておりました。東京電力にうかがいます。関係者の理解は得られたんでしょうか?
 文挟参考人(東電・副社長):昨日国から方針が出されております。我々はこの方針に基づいて、しっかり取り組み、これから関係者の理解を取り付けていきたいというふうに思います。
 山添:「これから」とおっしゃった。理解は得られていないということを認めたわけですけど、それは約束を反故にするということですよ。全漁連の岸会長は抗議声明を発表し、到底容認できるものではない。福島県のみならず、全国の漁業者の思いを踏みにじる行為だと批判し、今後とも海洋放出反対の立場はいささかも変わるものではないと強調しています。……副大臣と東電にうかがいます。この声をどう受け止めておられますか?
 江島(経産・内閣府副大臣文挟参考人
  :<ともに風評被害対策に取り組むなど、努力すると回答>
 山添:政府の基本方針を受けての声なんです。世論調査では7割を超える方が反対を表明しています。農協、漁協、森林組合、昨年政府が行ったヒアリングでも反対と明言されていたはずです。中国や韓国、ロシアの外務省も重大な懸念を表明しました。国内外で反対や異論、懸念がこれだけ表明されています。約束を反故にしての海洋放出は絶対に許されません。
 トリチウムの濃度を1リットルあたり1,500ベクレル未満にするという方針。これは国の基準の40分の1、WHOの飲料水水質ガイドラインの7分の1だと。これも基本方針に示されています。しかし、飲料水の基準で比較するのであれば、アメリカは740ベクレルですから、その倍です。EUは100ベクレルですから、その15倍ということになります。日本にはそもそも飲料水に関する基準がありません。経産省にうかがいますが、トリチウムの健康リスクは国際的には定説がないというのが実際のところではないですか?

 新川審議官放射性物質健康被害についてはICRP(国際放射線防護委員会)が定めている年間1ミリシーベルトを基準に各国で定められていると理解しています。日本においては、……6万ベクレル/㍑と承知しています。
 山添:健康リスクについては国際的に定説がないから、各国がばらばらな規準になっているのではないか、とうかがっています。
 新川:<日本においては年間1ミリシーベルトをもとに算定したという回答>
 山添:自ら示したWHOの基準との関係でも今答弁されなかった。WHOの7分の1だからいいと書かれているわけですが、そういうものでは全くないということを指摘しておきたい。資料は経産省の昨日のプレス発表です。ALPS処理水の定義を変更するとしています。トリチウム以外は除去できている、だから(放射能汚染水ではなく)「処理水」だというこれまでの説明はまちがいだということですね?
 新川:<風評被害を防止するためにどのような「水」であれば海洋放出に国民の理解を得られるかと考え、ALPS処理水の定義を明確化した。福島第一原発のタンクに溜めている水の約7割にはトリチウム以外にも規制基準以上の物質が残っている。現在タンクに貯蔵している水は必要に応じて再浄化処理を施したもの……という回答> 
 山添:タンクに貯蔵されている水の7割がトリチウム以外で規制基準以上だと、そのことが正確に説明されたのは2018年です。トリチウム以外は除去できていると言って誤解させてきたのは、政府と東電の側だと言わなければなりません。タンクに残留しているトリチウム以外の核種の総量、これも把握できていません。2次処理をしても、トリチウム以外を除去できるという保証もありません。
 汚染水処理の主要な施設であるALPSは、本格運転前の主要な検査すらまだ終わっていないのではありませんか?

 更田(原子力規制委)委員長:<汚染水処理を非常に急いだために使用前検査手続きを飛ばしている部分はあると回答>
 山添:2013年の運転開始から8年以上、いわば試験運転のままの状態が続いているということです。「処理水」だから安全であるかのような話がありますが、処理をする条件すら整っていないのが現状です。
 そういう中で、昨夜復興庁のホームページを見て驚きました。トリチウムゆるキャラのように登場しています。これは親しみやすさのためだという担当者の声も報道されておりました。しかし、事故原発から放出されるトリチウムは親しむべき存在ではありません。資料を見ると、世界でも(トリチウムを)流していると言って、他の原発の排水と同じであるかのように強調までしてるんですね。復興庁にうかがいますが、この広報、どこにいくらで発注したものですか?

 復興庁・角野統括官:<動画とチラシ等の事業全体の契約金額は3億700万円で、お尋ねの動画とチラシの作成は詳細は言えないが、だいたい数百万円程度。発注先は電通という回答>
 山添電通に発注したということですが、この広報予算は昨年度は4.7億円、今年度は9.7億円に倍増しています。海洋放出を前提として、さらにこうした広報をしていくということなのでしょうか? 土地や水や生産物や、その汚染状況を調べて、事業の再建や復興に努力が重ねられてきました。そういう方々が、このトリチウムゆるキャラ化した広報をどんな思いでご覧になるだろうか、と私は思います。これこそ、トリチウムは安全だと言って、意図的に誤解を広げるものではありませんか?
 角野:<多くの国民の皆様に関心を持ってもらうためにわかりやすくするイラストの一部であるが、指摘をふまえて今後検討したいと回答>
 山添:これ正しい内容でもないと思うんですね。先ほど更田委員長が福島原発の水と他の原発の水とは違うのだ、炉心損傷を経ている、検出限界以下だとしても他の核種についても含んでいるので違うと、この場でもお話になった。ところがここ(広報)では、「世界でもすでに海に流しています」と、こういう表現をされている。正確にとおっしゃるのであれば、見直すべきだということを指摘しておきたい。
<中略>
 山添:……政府方針だからと言って海洋放出ありきで審査を進めることはないと、今、お約束いただけますか?
 更田原子力規制委員会は東電からの申請が規制に反するものであれば当然認可することはできないし、さらに政府方針に則ったものでなければ認可するものではないというふうに理解していただければ、と思います。
 山添:中立的な立場は当然求められると思います。原子力市民委員会の声明は現実的に実行可能な代替案も提言しています。トリチウム半減期が約12年ですから、保管を続けること自体に意味があります。堅牢な大型タンクによる保管の継続や、モルタル固化処分も提案されています。海洋放出を決めても、(放出処理に)30年から40年かけるとされています。ならば、海洋放出ありきではなく、他の方法を引き続き検討すべきではないかと考えますが、いかがですか?
 新川:<デブリ処理や廃炉作業ためのスペースが必要で、さらに長期保管用のタンクを増設する余地は少ない、他の処分方法の評価の結果、地層注入や水素放出、地下埋設についてはさらなる技術開発や規制の検討が必要で、対応に時間がかかるという指摘をされており、現実的な対処法として海洋放出を選択したという回答>
 山添:(他の方法を)もう検討しないということなんですか?
 新川:<長期の放出ということなので、その間に技術進歩等あれば当然、(海洋放出以外の処分方法も)考えていくと回答>
 山添:重要なことは汚染水そのものの発生を止めることだ、海洋放出には反対だという意見が自民党の議員からも出されております。海洋放出の方針は撤回するよう改めて求めます。
<以下略>

 また出た、電通……。この妙なゆるキャラ・イラストは原発事故で避難を強いられた人や生活再建に苦しむ人々、ひいては我々全体を冒涜していると思う。

 この海洋放出。もうすでに秘かに黙ってやってきたことを追承認しただけなのではとも思えてくる(2月の地震でタンクが損傷してるとしたら、汚染水が漏れ出ている可能性がある。あくまで風評の域は出ないが)――そんなまさかの妄想が、この政府だと、まんざら妄想ではないように思えてくるのが癖になってきた。

追記:ALPSの処理機能については、きっこさんのブログがわかりやすいのでご覧ください。

汚染水「放出ありき」の非道。政府と東電の“密約”が炙り出す大嘘 - まぐまぐニュース!





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