ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

澁谷知美氏の話

 澁谷知美『日本の包茎 男の体の200年史』筑摩書房 2021年2月)という本が話題になっている。当初は、題名が刺激的なので、本屋で見つけても手に取れるかなあ?くらいの印象だったが、土曜に、毎日新聞で詩人の渡邊十絲子さんが取り上げているのを読んで、ふーんと思い、
今週の本棚:渡邊十絲子・評 『日本の包茎 男の体の200年史』=澁谷知美・著 | 毎日新聞

 月曜に、弁護士の澤藤藤一郎さんが書いたブログを読み、この包茎手術のビジネス化を主導したのは高須クリニックだったのかと思い(他の美容外科クリニックも同罪だが)、
澤藤統一郎の憲法日記 » 2021 » 4月

 昨日、ラジコで4月6日昼のラジオ・文化放送の「大竹まこと ゴールデンラジオ」に出演した著者の話を聞いていて、なるほどと思った。
https://radiko.jp/#!/ts/QRR/20210406142943

 調べてみると、このときの話は、2月17日付「現代ビジネス」の記事と内容の多くが重複している。
「包茎」はなぜ恥ずかしくなったのか…? ウラにある男性間の「いびつな支配」のメカニズム(澁谷 知美) | 現代ビジネス | 講談社(1/7)


 以下は、6日のラジオで澁谷氏が話した内容の一部である。


 タイトルは、これで行こうと私の方からお願いしました。いったんは、ちょっとストレートすぎるんじゃないかということで、もっと抽象的な「包まれた羞恥心」とかはどうかというのも出たんですが、やっぱり「日本の包茎」で行こうと……。

 「仮性包茎」は私にとっては不思議なものだったんです。というのは、基本的に手術は不要で、本当に手術が必要なケースというのは全体の0.07%ということなんです。それから、ある泌尿器科にかかっている人の調査では、完全にかぶっている(真性包茎の)人が2%、完全に露出している人は約35%。その中間を仮性包茎とするならば、約63%の多数派がその仮性包茎ということになります。病気でもない多数派が、何で「恥ずかしい」のだろうか、と疑問をもったんです。
 調べていくと、案外すぐに答えは見つかったんです。これは美容整形系外科の皆さんが、恥ずかしくなるようなキャンペーンをなさったんです。たとえば、高須克彌さんはこうおっしゃっています。

「僕,ドイツに留学してたこともあってユダヤ人の友人が多いんだけど,みんな割礼しているのね。ユダヤ教徒キリスト教徒も。ってことは,日本人は割礼してないわけだから,日本人口の半分,5千万人が割礼すれば,これはビッグマーケットになると思ってね。雑誌の記事で女のコに「包茎の男って不潔で早くてダサい!」「包茎治さなきゃ,私たちは相手にしないよ!」って言わせて土壌を作ったんですよ。昭和55年当時,手術代金が15万円でね。……まるで「義務教育を受けてなければ国民ではない」みたいなね。そういった常識を捏造できたのも幸せだなぁって(笑)」(『週刊プレイボーイ』2007年6月11日号)

 高須さんの話だけを引用すると、あたかも高須さんが包茎を恥ずかしいものにしたと思ってしまいそうですが、実は戦前から恥の感情というのはありました。たとえば、徴兵検査ですね。そこで「M検」というのが行われていて、Mというのは「マラ」のMなんですけど、医師の前で全裸になって性病を持ってないかどうかとか、調べられたんですね。
 お医者さんが書いたおもしろい論文がありまして、1899年のものなんですが、検査では露茎の人(亀頭が出ている人)が多数派で、7割もいたというんです。これはちょっとおかしいと思ってしらべたところ、実はその「7割」のうちの7,8割はわざと皮をたくしあげて、あたかも自分は包茎ではないように見せかけてただけなんです。つまり、当時も包茎であることは「恥」みたいな感じがあったんですね。
 かなり暴力的なこと(検査など)が行われていて、「お前、包茎なのか!」と罵倒したり、無理やり大人たちが二人がかりで皮をめくるとか……。軍隊でのことですけど、そうやって無理やりめくると、「日の丸が上がった」という軍隊でだけ通じる用語があったんですね。そういうのは絶対イヤなものだと思うんですが、でも報復はできないですよね。それが蓄積されていって、立場の弱い女性とかに暴力が移譲されるのではないかというのが、私の見立てです。

 高須さんとかが1980年代にとった手法は、女の子に「ヤダー」とか「フケツー」とかと言わせるんです。そういう言葉が雑誌の紙面上に載る。それを読んだ人は、まさかお医者さんが背後で女の子に言わせてるとは思わないですから、女の子に敵愾心を持つわけですね。女がこんな好き勝手いいやがって、と。世の中にはすで女性に対する蔑視、嫌悪みたいなものがありますから、それと結びついて、実際的な女性に対する加害にならないとも限らないので、すごく問題のある手法だったと思います。

 でも、実際のところ、女性の側はどうなのか。数は少ないんですけれども、18歳から26歳までの女性13名に海外の研究者が学術的な調査として意見聴取をしたんです、「包茎についてどう思いますか?」と。その13名の中に手術済みのペニスがいいと言った人は誰もいなかったんです。ほとんどの人はそもそも包茎が何かがわからない。ありのままでいい、と。……。
<以下略>

 毎日新聞の書評で、渡邊十絲子さんも書いている。
「女は包茎が大嫌い」というキャンペーン……で「女性の意見」として紹介されていたのは、実は男性が作為的に用意した言葉だ。本来は必要のない手術を受けさせるために包茎をこきおろし、でも「悪口を言っているのは女性」という体(てい)にしたずるさに、強い怒りをおぼえる。好きな男性が包茎だったので嫌いになったという女性がもし本当に存在したら、お目にかかりたいぐらいのものだ。
<中略>
 ……人間誰しも、なにかしらコンプレックスがあるが、それを尊重してもらい、また相手を同様に尊重したい。身体の形状も、体力や感じやすさなども人それぞれで、採点評価をするのではなく、「この相手と自分」の組み合わせならではの個性的な楽しみ方を育てればいい。そういう大いなる幸福の前では、相手が包茎かどうかなんて、瑣末(さまつ)すぎて記憶にも残らないことなのである。
 この労作を書き上げた著者も女性、それを新聞紙上でぜひ紹介したいと思ったわたしも女性だということを、男性にはまじめに受け止めてほしい。生まれもった身体をかんたんに否定したり、恥じたりしないでほしい。わたしたちは互いの身体を受け入れて愛することができる。それ以上、なにが必要だろうか。



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