ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

NTT接待の構造的問題 佐藤章さんの解説

 「文春砲」の炸裂が続き、総務省の違法接待問題は東北新社(スガ長男)からNTTへと飛び火している。文春の取材力というか情報網の凄さには戦慄を覚える(政治家や官僚でもないけど……)。しかしそれ以上に、今回のNTTの接待は「やっぱりお前もか」というレベルを越えている。
 3月6日付で公開された「一月万冊・清水有高」さんの動画に出演していたジャーナリスト・佐藤章さんがこの辺りの事情を解説してくれていて、非常に興味深かった。いくつか拾って起こしてみる。

国益を損なう総務省接待問題!かばう自民党も同じ穴の狢?NTTグループと菅政権のタッグは日本のインターネットの発展を阻害する。元朝日新聞記者ジャーナリスト佐藤章さんと一月万冊清水有高 - YouTube
 
 今『週刊文春』(2021年3月11日号)を見てるんですが、見出しがね、「菅最側近官僚にNTTが58万 超絶接待」(笑)。これよく取材してますよ。メニューから、どういうものを飲んだかまでね……。これは相当な内部情報がないと分らない話ですよね。……で、接待がすごいですよね。問題の山田真貴子さん、飲みに飲みますね、この人(笑)。お酒強いんだなあ。乾杯が最初ドンペリでしょ、3万8千円の……。食器がフランス国王ルイ=フィリップから王室御用達の認定を受けた芸術品クリストフルの銀食器が並ぶ、と。白ワインが一本3万6千円、コルトン・シャルルマーニュと。さらに一本12万円のシャトー・マルゴーと……(唖然)。もう、よくわかんないですよね。
 それに続いて、菅首相最側近の谷脇(康彦総務審議官)さんね。……2018年9月20日。NTTの澤田社長がじきじきに谷脇さんを接待した。……これ根本的に考えてみたいと思うんですよ。
 僕(佐藤)ね、1989年頃、郵政省(現総務省)とNTTを担当していて、この構造的問題の端緒を知っているんですよ。そのとき「日米通信合意で何が変わる」というタイトルの記事を書いたんですが、当時、日米の通信摩擦というのがあったんです。これ、アメリカのモトローラという会社がマイクロタックという端末(携帯電話)を売り込んできたんですよ。これまさにガラケーの一番最初なんだけど、日本で販売させてほしい、ついては周波数を割り当ててほしい、と申し入れをした。当時、郵政省は、それはなかなか難しい、と。で、いろいろと交渉をして、話がついて、割り当てができて、マイクロタックが売り出されたんです。これが1989年6月に日米通信摩擦の合意が成った。これがスタートなんです。これでやっと日本国内でも競争が始まったんです。携帯電話の販売と周波数の割り当てですね。
 翌年1990年3月にNTT本体から移動電話事業の分離をすることを政府が決定して、91年8月にNTT移動通信企画というのが設立されるんですが、これがNTTDoCoMoの前身なんです。あと2社くらいこれに対抗する会社ができたんですけど(KDDとか)……。で、年表風にたどっていくと、2006年に菅さんが総務大臣になってるんです。当時、僕も不思議に思ったんですけど、携帯電話の端末がタダだったんです。これ、携帯電話の事業者が販売店に対して報奨金をばらまいていたんです。だから報奨金で「ゼロ円端末」というのができていたんです。この報奨金のコストが毎月の通信料金に転嫁されていたんですよ。だから、通信料金は高かった。こういう変な体系だったんです。で、これを変だなあと思った中の一人が菅さんであり、また、当時の総合通信基盤局電気通信事業部料金サービス課長をやっていた谷脇さんだったんです。そこで谷脇さんは研究会をつくって競争政策を立案するんです。つまり、もっと競争をして「ゼロ円端末」なんかやめて、料金自体を下げないといけないと。僕は、その政策は正しかったと思うんです。
 で、この谷脇さんが、2018年7月に、総合通信基盤局長になるんです。モバイル事業の総元締めみたいな……。その翌月ですよ。菅さんが官房長官として「携帯料金は4割程度下げる余地がある、競争が働いていないと言わざるを得ない」って言ったんです。そのときすでに菅さんは谷脇さんに目をかけていて、谷脇さんを局長にしたのも菅さんだと言われています。で、菅発言の翌月の9月20日、NTTの澤田社長が谷脇さんを接待するわけです。一人5万円の……。もう飲めや歌えやで? 歌わなかったかもしらんけど(笑)。
 で、翌年2019年12月、2年前の12月、谷脇さんは総務審議官に就く。ナンバー2です。まさに放送・通信の大責任者ですよ。2020年、去年の4月に、NTT澤田社長がNTTDoCoMoについて、完全子会社化をベースにしてDoCoMoを強化すべきではないかという話を社内で始めているわけです。その2か月後の6月、DoCoMoの副社長に現社長の井伊(基之)さんを社長含みで送り込んだんです。で、9月、DoCoMoTOB(take-over bid 株式公開買い付け)を発表したわけです。総額4兆2千億円! 三大メガバンクがすぐに融資を決めて……。これは民間企業としては日本最大だし、相当な大事業なんです。大事業なんだけど、大問題ありなんです。
 菅さんが携帯料金は4割程度下げる余地があると言って、今でも菅政権の目玉事業になってますが、これどこかが先鞭をつけないとダメですよね。NTT本体がDoCoMoを完全子会社化すると、図体がでかくなって余力が出ますよね。だから、まず料金が下げやすいんですよ。で、まずNTTDoCoMoが真っ先に料金を下げますよね。すると、競争会社のソフトバンクKDDI楽天とか、やっぱりね、苦しいんですよ、それやられちゃうと……。NTTは昔は日本電信電話公社で、国の事業で日本全国にネットワークを張り巡らせたんです。国の予算、国民の税金をつかって……。だから圧倒的なインフラをもってるんです。今これが光通信に替わって全国にそのネットワークをもっているわけですね。で、携帯電話各社はこのネットワークを借りて、基地局から電波を飛ばしているわけです。新規に参入した事業者は設備投資が間に合わなくて基地局が少ないんです。だから、NTT東日本や西日本のネットワークとどうつなげるかが勝負なんです。今度DoCoMoが100%の子会社になってどういうことが起こるかというと、例えばですよ、NTT東日本や西日本が使用料を値上げしたとすると、NTTDoCoMoはまあ極端なことを言うと赤字になりますよね。KDDIも赤字になるし、他もみんなそうで、会社がつぶれちゃうかもしれない。だけど、NTTDoCoMoはつぶれないんですよ。NTT本体と利益が通じているから折半できる。NTTグループ全体としては売り上げは上がっているわけです。だから他社には圧倒的に不利なんです。光通信とのつなぎ方についても、もしNTT仕様みたいな独特のことをやられちゃうと他社は困っちゃうんですよ。そこで「障害」が起こって通信速度が遅くなるってこともあるわけです。これから5Gとかやるうえで支障になるわけですね。
 1990年に政府がNTTから移動体通信の分離を決定した趣旨は、これから競争をさせるということです。それをNTTがもろにやったら競争にならない。だから、分離させたわけです。小泉政権のときも、NTTDoCoMoの株式の66.2%という保有比率をさらに下げていくという趣旨だったんですよ。
 携帯電話はアメリカが入ってきたから競争せざるを得ないことで分離したんですけど、今に至って何でこんな歴史に逆行するようなことが起きているのかなあ、と。驚きですよね。KDDIにしてもソフトバンクにしてもね、余力がなくなって、さっき言ったように、NTTとDoCoMoがもし共謀してうまい具合にやれば競争にならなくて、他がマイナスになってくる。体力を落として、5Gとか6Gとかが海外ではどんどん競争で進んで行くときに、日本では対応できるのがDoCoMoしかない、ということになってしまうんですね。NTTしかない、と。そうすると、結局のところ、NTTは昔の体質に戻ってインセンティブ(意欲)が働かなくなっちゃうんですよ。だから国益を損ねてるんですよ。
 マイクロタックが入ってきたときね、思ったんですけど、格好いいなあ、こんなに軽いの?って。それまではこんな重いの肩から下げて現場に取材に行ってたんですよ。でもね、NTTの広報と話をしてたらね、こんなこと言うんですよ。「いやあ、マイクロタックが入ってきたけど、あれ、うちの技術に聞いたら、やれば、前に出来てたって言うんですよ。あの中身を調べてみたら、うちの携帯はでかいけど、中は変わらないんですよ」と言うんですよ。僕、そのとき思いましたよ。「だったら、最初からやれよ!」と(笑)。だから、その時はNTTには競争が働いてなかったから、やる気にならなかったんですよ。

<以下略>

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