ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

豊岡市の「コウノトリ育む農法」

 先週畑の蕗の薹が顔を出していることに気づいた。もうしばらく様子を見ようと思い、雨が上がった翌日、再び見に行くとひょこひょこと伸びているので、ちょっと早めだが開いてしまうよりはいいと思って、今日いくつか取って、知人にもおすそ分けした。蕗みそにするか、天ぷらにするか、……この時期の楽しみのひとつだ。春の到来を感じる。

 2月からあちこちで田起こしの光景を目にしてきた。稲作農家にとっての一年はもうスタートしているようだ。千葉は4月の中旬には田植えが始まる。他はどうだろうか?

 兵庫県(但馬)の豊岡市で「コウノトリ育む農法」に取り組む生産者「坪口農事未来研究所」の平峰さん夫妻を紹介する記事を読んだ。2014年から環境配慮型の農業に取り組んでいるという。

 こういうのは多分にロマンチックに語られがちだが、現実には、農業、特に稲作は、自分がよければそれで済むという話でもないので、ここに出てこないところでもいろいろな困難や苦労があると思う。
 もちろん小生は「農家」ではないから想像するだけだが、小生も農家のせがれの一人なので、昔は田植えや稲刈りの手伝いくらいはした。父親と無農薬のコメ作りについて議論したこともあった。しかし、まあ、ほとんど相手にされなかったと言ってよい。
 農薬を使わないに越したことはないと農家なら誰でも思っている。しかし、自分だけ農薬を使わなければそれで済むかというと、そうもいかない。自分の田にだけ農薬を使わなければ、病害虫が「集まる」かもしれないし、その結果、自分の田で「培養」することになった病害虫が他人の田んぼに「迷惑」をかけることだってありうる。農薬を使わないコメ作りをどうしてもやるんだったら、周囲の理解が欠かせない。できることなら賛同者を拡げ、広域にわたって同じコンセプトのコメ作りをしなければならない。それができるか、そしてまた、それで「成果(収量)」も出せるのか。

 でも、この記事を読むと、理解者はどこかにいるのでは、という気もしてくるし、また、一緒に汗をかきながら、理解者を増やせるのではないかとも思えてくる。上の「坪口農事未来研究所」の平峰さん夫妻の場合はどうだったのか、倉石綾子さんの2021年2月24日付記事より引用する。

コウノトリも、ヒトも。生き物を育む農業 - クリーネストライン

(平峰英子さん)「私の両親が農業を行っていたころは作業工程がまったく合理化されていなくて、収穫時期には私たち姉妹もモミの入った大きな袋を担いでそこら中を駆け回っていました。帰宅した両親は休む間もなく袋から刈ったモミを出して、乾燥させて。その作業が一晩中、続きます。あれを見て、『将来は絶対に農家にならないぞ』、そう心に誓ったものでした」

農業を継いでくれた義兄が若くして亡くなったことで、図らずも農の道へ。一から農業を勉強する中、県の若手稲作研究会で出合ったのが、地域の生産者が取り組む「コウノトリ育む農法」だった。
「その時に初めて、地域のシンボル的存在であるコウノトリの絶滅に農業が関わっていることを知りました。田んぼに撒かれた農薬は、コウノトリの餌となる生き物の命を奪うと同時にコウノトリの体をも蝕んでいたそうで、死んだヒナを解剖すると高濃度の農薬が検出されたと言います。そのイメージが、若くして病いに倒れ、あっという間に亡くなってしまった義兄の姿と重なりました。当時は義兄の病気のこともあってアレルギーや癌についていろいろ調べていたのですが、リサーチするほどに『健康を支えるのは食である』という確信を得るようになって。コウノトリは田畑の食物連鎖の頂点に立つ肉食動物でしたが、このまま食をおざなりにすれば、いずれはヒトもコウノトリと同じ運命をたどるかもしれない。そんな恐怖心から、せめて主食であるお米くらいは、安心して口に入れられる安全なものを作っていきたい、そんな思いを強くしたんです」

慣行農法に比べると「コウノトリ育む農法」は手間もかかるし収穫量も少ない。それでも通年で収穫できる切り花や野菜、果樹にまで手を広げ、無我夢中で突っ走ってきた。あたりを見回す余裕が生まれたのは最近のこと。昨年からは2人の若手スタッフが加わってくれ、新しいアイデアと行動力で農業を盛り上げてくれている。…それぞれ別の企業や生産者の元で農業に従事した経験があり、環境に配慮した農業を志して坪口農事未来研究所に加わったというチャレンジングな作り手である。そんな頼もしい助っ人を得て、平峰さん夫妻は昨夏から新しい取り組みをスタートした。農業と太陽光発電を両立させるソーラーシェアリングがそれだ。

「田畑の上にソーラーパネルを設置しようという発想は、農業従事者からはなかなか生まれないものですが、僕たちの場合はエネルギー事業も展開している地元の米穀屋さんからソーラーシェアリングを紹介されたんです。降雨量も降雪量も多い但馬は太陽光発電に向いていないと言われていますが、2年に渡って全国のソーラーシェアリングの現場を視察する中で、但馬でも成立しそうだという可能性を感じ、思い切ってチャレンジすることにしました」(拓郎さん)
……
今年は田んぼと畑などを活用して計4機を稼働させたが、作業のやりにくさも感じないし、ソーラーパネルの下の作物の出来が悪いということもなかった。ソーラーパネルを設置することでトラクターやコンバインを入れられなくなることを危惧したが、導入後初の収穫作業も思った以上にスムーズだった、と英子さん。加えて、売電により予想以上の収入を得られた。ソーラーシェアリングで安定した収入を得られればその分を農業に投資でき、つまりは農地保全や若者の新規参入を促すなど、未来を見据えた農業を実現できる。

「一年間の取り組みを通して、育てる作物を工夫しようとか、パネルを支える柱をうまく活用しようとか、課題がいろいろ見えてきて来年以降がますます楽しみに。この取り組みは他県の生産者にも徐々に広まっているようで、視察の依頼も増えてきています。若手の2人はこの柱を使った地域の野菜のブランディングを計画しているみたい。どうせならソーラーの下の作物をすべて有機で栽培しようというチャレンジも進めています」(英子さん)
……
そんな話をする間にも、田んぼの上をコウノトリが悠々と舞っていた。「コウノトリ育む農法」は苦労も多いけれど、こうしたコウノトリの姿を目にすることがモチベーションになる、と夫妻は言う。
「トラクターやコンバインは大量の化石燃料を使いますから、耕耘や草刈りの回数をなるべく減らすとか、ハウスで使うビニールゴミの量を抑えるために、耐久性のあるポリカーボネート製に切り替えるとか、そういう工夫は常に行っています。現在は農業と地域の電力を循環させる取り組みを考えています。次世代の農業の盛り上がる仕組みづくりを、環境への意識を高めながら進めていきたい」(拓郎さん)




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