ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

マイナンバーに学校の成績をひも付ける話

 これはアナログ老人から見たひとつの“保守的”見方であることをあらかじめおことわりしておく。

 来年度の予算案編成が大詰めを迎え、週明け月曜日にも閣議決定される見込みだ。政権肝いりのデジタル庁の予算については、閣僚折衝の結果、人件費と基盤システムの開発費81.3億円の要望が満額認められたという。この額、「肝いり」にしてはちと少ない気もするが、発足は9月なので、話題のマイナンバーなどはなお総務省の所管ということになっている。

 そのマイナンバーに、政府は、保険証や運転免許証につづき、小中学生の学習履歴やテストの成績をひも付けてオンラインで管理するシステムをつくり、2023年度にも試行する方針を固めたというのがネットで話題になっている。 

「FNNプライム」12月16日付記事より。

マイナカードに学校の「成績」 対象小中学生 2023年度にも

政府は、小中学生の学習履歴や試験の成績を、マイナンバーカードにひも付け、オンラインで管理する仕組み作りに着手した。
そもそも文科省は、教育データの利活用を進めていて、児童・生徒の個人の学習意欲の変化や理解度をデータとして記録するのは、1人ひとりに合った効果的な学びの実現が目的。
蓄積された記録データをもとに、教員が、1人ひとりに合った指導を行うことができるとしている。
また政府は、こうした個人の学習データのマイナンバーカードへのひも付けを検討していて、2023年度以降の実現を目指している。

小中学生の学習履歴や試験の成績をマイナンバーカードにひも付けることについて、教育評論家の石川幸夫さんは、「メリットとしては、成績そのものが一元管理できること、進学・転校先でも共有できること」と話す。
教師が新しい教え子を担当する場合、これまでの学習記録が確認しやすくなるため、子どもにとっても教育の継続性が得られるようになり、また、成績の変化などをビッグデータ化することで、将来の教育に生かせるという。
さらに、今までは、書類ベースだった転校や転入の手続きが、データで簡単にやり取りできるようになり、教師の仕事の軽減につながるという。

一方で、デメリットについて、石川幸夫さんは「個人情報漏えいの危険があり、取り扱いについては、慎重かつ慎重というくらいのものが必要になってくると思います」と話す。
現段階では、主に成績のデータを記録する想定だが、このほかに発達段階の子どもたちが起こした過ちなど、ネガティブな記録までを扱うかについては、十分な検討が必要だと指摘している。


 上の話、個人の学習・成績のデータ管理とマイナンバーを不自然に結び付けているが、なぜマイナンバーでないと、「成績の一元管理」や「教育の継続性」や「転校・転入手続き」の簡略化ができないのかについて、何も説明しない。マイナンバーにあえて紐づけしなくとも可能なのではないか。
 たとえば、「転校・転入手続き」などの際は、出る学校と入る学校のあいだで書面のやり取りをしながら、「指導要録(生徒の学籍・成績評価・出欠などの記録)の写し」や「健康診断の記録」等を引き継ぐことになっているが、これはオンラインで学校同士の情報交換ができるシステムをつくればいいのであって、生徒個人のカードにこの情報を入れて?やりとりする必然性がない。現状では生徒個人には見せられない情報だって含まれるのだから、それはそれ、これはこれで、などという対応をしたら、「今送ったFaxは届いてますかと電話する」かのごとく、オンラインと書面と二重にやりとりしなければならなくなって、かえって面倒なことになってしまう。それに「個人情報の漏洩」を危惧するなら、カード一枚に情報を集約しない方が得策なのではないか。

 そもそも、マイナンバーの紐づけとは別に「学びの履歴を記録する」システムについては、今年の3月に経団連がまとめた提言がある。

https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/022_honbun.pdf

「EdTech を活用したSociety 5.0 時代の学び ~初等中等教育を中心に~」
                        2020 年 3 月 17 日

1.はじめに
 (1)現状の課題
 (2)EdTech* の活用
 こうした課題を踏まえて経団連は、初等中等教育を含めわが国の教育の改革を求める提言を今夏にも公表する予定だが、迫りくる変化の時代に対応できる
人材を早急に育成する必要から、本提言では、そのカギとなる EdTechの活用に焦点をあてて提言する。
* Education と Technology を組み合わせた造語。本提言では「デジタル技術を活用した教育技法」と広く定義する。
授業の中で EdTech を活用することにより、AI を活用するためのプログラミング的思考を習得することや、教科教育を効率化することにより、児童・生徒の想像力・創造力を育むための探究型学習に時間を割くことが可能になる。また、AI 教材や VR などを活用することで、個別最適な学習が可能となるととも
に学習者の学ぶ意欲を高めることが期待できる。教員にとっても、EdTech の活用によって校務が効率化し、働き方改革につながること、個々の児童・生徒の
理解度を把握し、それを踏まえて適切なアドバイスを行えるようになること、効率化によって生み出された時間を児童・生徒とのコミュニケーションにあて
ることが考えられる。さらに、個人の学習履歴を EdTech を用いて記録し、企業などが活用できるようになれば、企業は自らが求める人材を採用しやすくなり、学ぶ側にとっても、学校教育のみならず社会人になった後も自ら学び続けるインセンティブやモチベーションの向上につながる。
 もっとも、EdTech は教育に技術を使うこと自体が目的ではなく、今後求められる人材を生み出す教育を実現するためのツールに過ぎない。一方で、教育現
場において IT 化を含めた EdTech の活用が遅々として進まない背景には、なぜ教育の IT 化、EdTech の活用が必要なのかという点についての十分な社会的理
解が得られていないことが考えられる。
 そこで本提言では、産業界の視点から、Society 5.0 時代の人材に求められる能力・資質を述べる(「2(1)」)とともに、望ましい学びのあり方、そのための EdTech の活用について、主に初等中等教育を念頭に提案する(「2(2)」)。そして、こうした学びを実現するための環境整備について、政府や学校、関係機関に求めることを提言するとともに(「3(1)」)、企業自身に求められることについても提言する(「3(2)」)

2.望ましい人材育成のあり方

3.必要となる環境整備
 (1)政府、学校に求められること
   ①インフラ整備
   (ア)ハード面の整備
     (a) 教育用端末1人1台の整備
     (b) インターネット環境の整備
   (イ)ソフト面の整備
     (a) 習熟度に応じた授業の推進
     (b) 学校と企業、官公庁との連携
     (c) 学びの履歴を記録する仕組みの構築、活用

 現時点においては、初等中等教育から高等教育・社会人まで生涯を通じた学びや学校以外の社会的な活動などの履歴を、信頼性をもった形で記録する仕組みが構築されていない。
 そこで初等中等教育段階から社会人における学習履歴**ブロックチェーンやプラットフォームなどにおいて記録する仕組みを構築し、教育機関や企業などが当該データを活用できるようにすることで、学習者自身が学びや経験を進学・就職に活かせるようにすべきである。
** 学習履歴として、例えば、学習者の理解度を一定の指標に基づき示したもの(成績)や資格、ボランティアなど社会的な活動が想定される。
 これにより、当該学生の進学を受け入れる学校も、自らの教育方針や理念に合う学生を受け入れることが可能となるとともに、当該学生の弱み(例えば語学力など)を事前に把握することで、進学後の学習支援につなげることが可能となる。また、企業など採用する側にとっても自らが求める能力や資質を有する人材を採用することで、採用のミスマッチを減らすことにつながる。また、就職後も社内での処遇向上や転職などに向け、社会人の学び直しを促進することも期待できる。こうした仕組みの前提として、現在政府において進められている学習指導要領のコード化も併せて推進する必要がある。

<以下略>


 要は「学びの履歴」の一元管理自体は産業界が望んでいるようだ。しかし、採用が決まって実際に働き始めた社員の「履歴」情報を企業(管理者)があとから逐一探り出すことでさえ問題を含んでいるのに、採用する前から企業側が個人の「履歴」情報を詮索できるような制度にしたら、ますます公正な採用選考が行われなくなる危険性がある。表向きの「選考条件」と裏(実際)の「選考条件」が乖離し、恣意の入り込む余地が広がっていくのではないか。

 「学びの履歴」の一元管理システムをつくるのだって容易ではないのに、これをマイナンバーと紐づけ、しかも2023年度以降に実現する……。どうせうまくいかないだろうと思いつつ、警戒感だけは解けない。



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