ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

学術会議問題のすそ野

 筑波大学東京大学で起こっている学長選考をめぐる“対立”には、政府権力による日本学術会議の人事介入に重なる面がある。いや、「重なる」というより、そのすそ野、下地が着々と整えられてきたのだと思う。

毎日新聞2020年11月10日付記事(東京夕刊)より。

特集ワイド:筑波大・東大学長、選考過程ブラックボックス化 - 毎日新聞


筑波大・東大学長、選考過程ブラックボックス
国立大学で学長選考を巡る内紛劇が続発している。10月に選考のあった東京大は検証委員会の設置を決め、筑波大は教職員有志が「民主的手続きを破壊した」などと執行部に猛反発している。日本学術会議の任命拒否問題で「学問の自由」がクローズアップされている今、大学で何が起きているのか。

象牙の塔も自由危うく
「理論上、永遠に学長になれる」。10月14日、東京都内で開かれた記者会見。教職員有志で作る「筑波大学の学長選考を考える会」共同代表、竹谷悦子教授は悲痛な表情で訴えた。
筑波大の学長選考は、現職の永田恭介氏と生命環境系長の松本宏教授の一騎打ちだった。教職員投票では、松本氏が永田氏の約1・6倍の票を獲得したが、「学長選考会議」(議長・河田悌一関西大元学長)が永田氏を新学長に選んだ。考える会は即座に「不正な選考を認めない」「権謀術数(マキャベリズム)は見事というほかない」などとする緊急声明を発表。対する選考会議側も、河田議長が記者会見で「変な会がいちゃもんをつけた」と反論した。
教職員投票で松本氏の後じんを拝した永田氏の新学長選出には内規上、瑕疵(かし)はない。筑波大は今年3月、学長選考会議が内規を改め、6年だった学長の通算任期の上限と、教職員が候補者に投票する「意向調査」を廃止。教職員による投票は選考会議に推薦する候補者を選ぶ手段としてのみ残った。就任8年目で任期の上限を超えていた永田学長の再任への道が、ここで開かれたのだった。
だが、竹谷教授らは内規変更そのものの根拠や正当性などを問う公開質問状を送った。「候補者名の公表も選考が終わるまで学外に伏せられるなど秘密主義が進んだ」と考える会関係者。こうした動きに対し、選考会議側は「(内規改定には)2年以上かけた。(学内組織の)同意の上で一つ一つ手続きを踏んだ」と反論。「象牙の塔」は今も大揺れだ。
筑波大のような、いわば選考過程のブラックボックス化は東京大でも問題となった。9月に教員有志6人が学長選考会議(議長・小宮山宏元学長)に公開質問状を送った。7月に教員代表による代議員投票があり、上位者ら約10人が第1次候補者となった。選考会議はその中から3人を最終候補者に決めた後、教員らが投票する意向調査の結果を参考にして、藤井輝夫副学長を新学長に選んだ。10月2日のことだ。意向調査で藤井氏は最も多い票を獲得していた。
有志が問題視したのは、第1次候補者からの絞り込みだ。内規では「3人以上5人以内」と記されていたが、選考会議が選んだ最終候補者は3人で、全員理系の男性。「多様性・透明性を欠いている」。公開質問状でこう批判した有志代表の田中純教授は「代議員投票の1位が最終候補者から漏れるなどおかしな点があった」。有志の1人、阿部公彦教授も「選考会議に圧倒的な権限が与えられ、決定プロセスが恣意(しい)的なものになった」と批判する。
選考会議は公開質問状に対し、「社会的要請もあって、選考会議が主体的に選考に関与するのが望ましいとの議論があった。多面的に審議した」などと回答している。

安倍政権下、トップ権限強化
「起こるべくして起きた問題で、学問の自由にとっては深刻な事態だ」。学長選考を巡る問題に詳しい明治学院大の石原俊教授(社会学)はそう指摘する。
<学問の自由は、これを保障する>とある憲法23条について、石原氏の解説を聞こう。「政官財界など外部の権力に対して、もう一つは大学の経営者・管理者に対して、大学の学問の自由と自治を守ること。具体的には『教育・研究の内容』と『研究者の人事』を守ることを指す」。戦前に政府や軍の言いなりになり、教育・研究を通して戦火の拡大と敗戦を導いた苦い教訓を反映した条文だ。国立大では戦後、人事や教育・研究に関わる重要事項は、時の権力などの影響を受けずに教授会など専門家同士の合議(ピアレビュー)で決め、学長も教員らが選挙で選ぶシステムを作った。
「研究者の人事」については、国立大の学部長の選出や教員の採用・昇任などの人事は、教育公務員特例法に基づいて教授会で議論してきた経緯がある。
転換点となったのが「小泉構造改革」だ。国立大の再編・統合、民間的発想の経営手法や競争原理の導入がうたわれ、2003年に国立大学法人法が施行された。ガバナンス強化を目的に、あらゆる権限が学長に集約されたのもこの時である。
また、学外メンバーが半数(14年の改正で過半数に)を占める「経営協議会」が設置され、大学経営に関わる審議権は教員らから協議会へ移された。学長選考会議も協議会の学外メンバーが半数を占めることとなり、「この時、政官財の出身者が大学運営に直接関わることを可能とする下地ができた」。

<以下略>


 11月3日に国会前で行われた集会で挨拶された筑波大学佐藤嘉幸さんのスピーチ部分を、先回は割愛してしまったが、今回、起こしたものを以下に引用する。

安保関連法に反対する学者の会・佐藤学氏「学者の会呼びかけ人の水島朝穂氏は言った『日本学術会議から学術をとったら日本会議になってしまう』そのとおりです!」~11.3「学問の自由」を守れ 学者・学生・市民による抗議行動 | IWJ Independent Web Journal

 ……筑波大学では今年行われた学長選考から学長の任期制限が撤廃されました。理論上は生きている限りいつまでも学長ができる、そういうシステムになったわけです。しかも、学長を選ぶための教職員による意向投票も廃止されました。投票を行う者のその結果に基づかず、学長選考会議という組織が主体的に学長を選考するというシステムに移行されたのです。その結果、投票で下位になった現学長が再選されました。非常に困ったことです。しかも、これは悪い冗談なのかと思うような、あるいは、どこかの独裁国家のパロディなのかと思うような、そういった質の悪い制度変更なのです。
 これらはいずれも2015年の国立大学法人法の改定に沿ってなされたものです。その内容についてはご存じかも知れませんが、さまざまな改悪がなされています。その中にある「学長の任期制限の緩和や撤廃」、これを学長による大学の中長期的な経営、つまりマネージメントという観点から正当化しているわけです。しかし、大学は営利企業ではありません。大学は教育をする場です。そして、新しい知のあり方を追求する場です。利益追求の場ではないのです。みなさんそのことはよくお分かりだと思います。私もそのことに非常に強い危機感をもっています。大学の学内民主主義の解体がこういう形で行われています。
 筑波大学だけではありません。東京大学の事例も報告されました。京都大学でも同じようなことが起こっています。政府が進める新自由主義的な大学改革と関係があります。政府は産学協同、あるいは軍産学共同の母体として大学をリストラクチャリングしたいと考えています。このことは許されることでしょうか。私は許されることではないと思います。
 こうしたことを背景として、昨年筑波大学から防衛装備庁の競争的研究資金に応募がなされ、採択されました。この研究は防衛装備庁から4年間で12億円の資金を受け取る巨大なものです。しかし、重要なことがあります。筑波大学は2018年に軍事研究は行わないことを宣言する基本方針を社会に向けて発表しています。この研究資金獲得が基本方針に反するのではないかという様々な指摘、批判、行動がなされています。この基本方針をここで引用したいと思います。

 本学におけるあらゆる研究活動は人道に反しないことを原則とし、学問の自由及び学術研究の健全な発展を図るため、研究者の自主性・自律性が尊重され、かつ研究の公開性が担保されるものでなければならない。これらに反していることから、本学は軍事研究は行わない。

 何と高邁な理念でしょう。このような高邁な理念が社会に向けて発表されているのに、なぜ、筑波大学は防衛装備庁から4年間で12億円もの資金を受け取るのでしょうか。これはおかしいと思われないでしょうか、みなさん。
 現学長は、防衛のための研究は軍事研究ではないと述べて、この資金獲得を正当化しています。しかし、そんなことは先ほど引用した基本方針にはどこにも書かれていません。どこにも書かれていないことを宣言するのはおかしなことです。これは誰の許可を得てなされたものでしょうか。筑波大学の構成員の中にもこういった方針はおかしいと思っている方が大勢いらっしゃいます。しかしながら、同時に、学内民主主義が抑圧され、声が上げにくい状況もあります。
<以下略>




↓ よろしければクリックしていただけると大変励みになります。


社会・経済ランキング
にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ
にほんブログ村