ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「大岡越前」の再放送を見て

 千葉テレビで金曜と土曜の夜に「大岡越前」という時代劇の再放送をしていて、ついつい見入ってしまうことがある。2年ほど前に亡くなった加藤剛さん大岡忠相役を演じているが、これが「はまり役」というか、子どもの頃から見ていたので、大岡と言えば加藤さんで、他の人が大岡役を演じていると違和感がある。
 加藤さんの息子で俳優の諒さんによれば、生前、剛さんは、声を荒らげて怒ったことは一度もなく、いい俳優になることよりも、“人間として上質であること”、“人間として美しい生き方をすること”、“人に恥じない生き方をすること”を常に優先していた。……自分のやっていることと役のキャラクターが見事に一致した稀有な例で、父は大岡越前そのものだった、と回想している(Wikipediaより)。小生には、加藤さん自身がこの時代劇の醸し出す雰囲気そのものであったように思える。

 TBSで放映が始まったのは1970年ということなので、もう半世紀も前のことになる。再放送なので、懐かしい俳優さんが出てきたりすると、それだけで楽しくなる。また、江戸時代・享保期、というより、この国の1970年代から80年代の時代相が感じられたときもハッとしたりする。今や「自助」、「自己責任」なる語が幅をきかせているこの国だが、半世紀前はそうではなかった。この時代劇で江戸長屋の人情として描かれるものが1970年代の日本にも確かにあったように思う。ありていに言えば、それが1980年代以降の「新自由主義」によって変えられていった(壊されていった)のだ。

 西日本新聞(本社・福岡)の10月22日付記事に、コロナ禍で仕事を失い、路上生活で所持金がなくなり恐喝未遂事件を起こした人の話がある。
 
「食べ物ください」コロナで解雇、路上生活の末…恐喝未遂の女に刑猶予|【西日本新聞ニュース】

<前略>
「辞めてもらえないか」。2月、勤務先のうどん店の店長に告げられた。新型コロナで客足が遠のいていた。休業だと国の支援金制度の対象。解雇の場合は雇用保険などが受け皿になる。被告の保険の状況は定かではない。
 家賃が払えなくなり、相談相手もいないまま孤立を深め、夜逃げ同然で久留米市のアパートを出た。福岡市に向かった。都会の求心力に引き寄せられた。中央区警固公園や周辺で寝泊まりし、紙に「食べ物をください」と書いて路上に立つ日々。現金を差し入れてもらったときにはネットカフェで休んだ。居候をさせてくれた女性もいた。善意が染みた。
 公園を巡回する警備会社の女性(57)はベンチで過ごす被告の姿を覚えている。「ここで寝泊まりしていたら危ないよ」。声を掛けたが返事はない。通りすがった人が「福祉施設に入ったほうがいい」と話し掛ける様子も見掛けたが、しばらくして姿を見なくなったという。
 被告は福祉に頼ってはいけないと思い込んでいた。「私は健康だし、恥ずかしい」
だが数カ月で限界がきた。所持金257円。「私もおいしいものを食べて、新しい洋服も買いたい」。カッターナイフを握った。高級感があり、店員が1人の店に狙いをつけた。ためらい、ためらい、3度目の入店で声を発した。未遂に終わると交番に駆け込み、一部始終を話し、逮捕された。公判で被告は店や被害者に謝罪した上で、「普通の生活がしたい」と打ち明けた。

 新型コロナに関する解雇や雇い止めは非正規社員を中心に6万人を超す。住まいを失うケースの増加も懸念される。自殺者は増加傾向にあり、30代以下の女性が目立つ。
 行政も路上生活をする人たちへの巡回支援をしているが、その網の目から漏れた。「支援が届かず、救えなかった」。国選弁護人を務めた若杉朗仁弁護士は言う。
 今後は一時的に宿泊場所や食事が提供される法務省の「更生緊急保護」制度で生活再建を目指すという。
 「自分で何でもできる人ばかりではないから、さまざまな支援制度がある。相談することを考えてください」。判決言い渡し後、裁判官の説諭にうなずいた被告。また、仕事をしたいと願った。
(森亮輔・記者)

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 10月24日付朝日新聞等によれば、時代劇の悪代官役がぴったりのアソー副総理・財務大臣は、10万円の特別給付の効果について、「当然、貯金が減るのかと思ったらとんでもない。その分だけ貯金が増えました」、「カネに困っている方の数は少ない。ゼロじゃありませんよ。困っておられる方もいらっしゃいますから。しかし、預金・貯金は増えた」と述べたとのこと。

麻生氏「10万円給付分だけ貯金増えた」 効果を疑問視:朝日新聞デジタル

 しかし、いい気になってるこの無恥な老人も1983年の総選挙(中選挙区制 福岡2区=定員5)では第5位当選の共産党候補に2,600票余の差で落選している。
 やはり、1970・80年代と2020年の日本は“同じ国”ではないのだ。




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