ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

11. 1 住民投票 大阪の命運

 千葉県の片田舎に暮らす人間が大阪市住民投票について云々しても、所詮は「根無し草」な話だが、ここで維新の主張が通ってしまうと、千葉県どころか全国にますますこの種の「危険」な手法がまかりとおっていくのではと心配している。大阪のことであっても、本質的な問題は、大阪に限った話ではないと思っている。

 「大阪都構想」は一度否決され、橋下徹が“去って”終わったはずだった。ところが、府知事と市長のポストをひっくり返す奇策が功を奏して上げ潮に乗じた大阪維新の会により、またぞろの住民投票が提起されることになった。「大阪都の実現」が維新の会の原動力だから、これがないと、党の存在意義がなくなってしまうかのようだ。これは維新にとっては死活問題なのだろう。これが実を結ぶと、大阪市民の暮らしがよくなり、そのプラス効果を千葉県の片田舎の住民が見ていてうらやましいと思えるなら、何の異論もない。しかし、私見ではそうならない公算が高い。維新の言動にも、最近はメッキの剥げ落ちを感じている。

 Twitterを眺めていると、維新の吉村洋文・大阪府知事が「東京も二重行政を解消するために特別区にした」と発言したという記事を目にする。しかし、東京都の場合、東京の住民の意思で都になることが選択されたわけではない。加えて、「特別区」のデメリットに触れないのも、意図的というより基本的な知識が欠けているのではと思ってしまう。
 保坂展人・世田谷区長は東京都と特別区について次のように指摘している(孫引き)。

 東京の特別区制度は戦時下にできたものです。戦争遂行のため、意思決定の迅速化をはかる目的で東京府東京市が廃止され、「特別な区」が置かれました。
 特別区は都の内部団体とされ、自治権が大幅に制限されてきました。1952年、区長を選挙で選出する「公選制度」が廃止されました。自治権拡充を求める運動を展開し、75年にようやく区長公選制が復活しました。数々の運動で権限を勝ち取ってきた歴史があるのです。
 2000年には特別区基礎自治体として位置づけられました。しかし、全国の市町村にある、都市計画の用途地域を指定する権限はありません。特別区は自由なまちづくりができません。
 今年、都から児童相談所の権限が移管されました。協議開始から10年かかりました。
……

https://twitter.com/osakatokosono/status/1318178318357680128
(以上、「都構想よりコロナ対策@相互フォロー歓迎 @osakatokosono」さんのツィートより引用)

 つまり、特別区地方自治体としては市町村より格付けは下で、市町村にできることが特別区では認められていないというのだ。「大阪都構想」と称しているが、今回の住民投票で直接問われているのは、大阪都の是非ではなく、大阪市を廃止し、特別区に分割するかどうか ―— 政令指定都市のひとつである大阪市の解消と4つの特別区への移行の是非なのだ。市が区に分割されれば、自治体として格下げとなり、今まで大阪市としてやってきたことができなくなってしまう、というのが反対する側の主張の大きなポイントだ。

 ジャーナリストの横田一は10月19日付の記事で次のように述べている(「ハーバー・ビジネス・オンライン」より)。

政令指定都市から特別区への“格下げ”となる都構想のデメリットに、大阪市民も気づいてきた | ハーバー・ビジネス・オンライン

<前略>
 当初は、吉村知事の人気と公明党が賛成に転じたことで「維新の勝利は確実」とみられ、ABCテレビの9月19・20日世論調査でも「13.8ポイント差」(賛成49.1%、反対35.3%)と大きくリード。しかし反対派が急速に追い上げて10月10・11日には「3.1ポイント差」(賛成42.3%、反対45.4%)の僅差になっている。しかも投票率が低い30代以下に賛成が多いことから、実質的にはすでに横一線状態であるのは確実だ。
 地元記者は「都構想の実態、特にマイナス面が次第に知られるようになったためだろう」と分析する。
政令指定都市大阪市が4つの特別区になることは、固定資産税などの財源や消防などの権限を失う事実上の“格下げ”です。橋下徹・元大阪府知事(当時)が『大阪市が持っている権限、力、お金をむしり取る』と発言、れいわ新選組山本太郎代表が『大阪市消滅で2000億円が大阪府にカツアゲされる』と訴えているのはこのためです。
 しかも市役所が4分割されるのに伴って464億円の初期費用がかかります。借家暮らしの4人家族が一人ずつ住むようになれば、新たな家財道具の購入が必要で家賃総額も増えてしまうのと似ています。
 こうしたデメリットが、これまでは維新の圧倒的な広報宣伝活動でかき消され気味でしたが、反対派の草の根的な運動で徐々に浸透しつつあるようです」

政令指定都市廃止のデメリットは災害対応にも

 実際、反対派はここを攻め所に街宣をしていた。立憲民主党枝野幸男代表は9月21日に天王寺駅前で、「私の地元・埼玉では何とか政令指定都市になりたくて、大宮と浦和が歴史ある名を捨てても合併した」と、他地域と逆行する都構想の特異性を指摘。「全国の政令市の現状をよく見極めて」と呼びかけていた。
 防災の専門家の河田恵昭・関西大学社会安全研究センター長・特命教授も、政令指定都市のメリットとして災害復興をあげていた。10月4日のれいわ新選組のゲリラ街宣でマイクを握り、大阪都構想よりも南海地震津波対策(市内が水没)を優先すべきと訴えた時のことだ。
「25年前の阪神淡路大震災が起こった時に神戸市が復興できたのは、政令都市だったからです。9年前の東日本大震災で仙台が復興したのも政令指定都市だったためです。(格下の)中核都市ではダメなのです」 
 なお河田氏は告示日の自民党反対集会でも、「大阪都構想のような未熟な案を通してしまうと、次、南海地震が起こると大阪市は壊滅する」と警告。菅首相官房長官時代の楽観的発言も暴露した。
「(南海地震津波被害について官房長官時代の菅氏に)『どうしていただけるのですか』と言ったら、こう言ったのです。『先生、来ないでしょう』と。そんなことで政治家は困るのです。もっと将来を見通さないといけない」

<以下略>

 京都大大学院教授で内閣官房国土強靱化推進室の懇談会座長も務めた藤井聡も、マスメディアによるイメージばかりが先行し、まともな議論が不足したまま住民投票になることを危惧して次のように述べている。

「大阪都構想」賛成の方にこそ知ってほしい「二重行政の真実」(藤井 聡) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)

大阪市民は「最低限の事実」も知らない
11月1日に大阪市で、重大な住民投票が行われます。マスメディアでは「大阪都構想」と呼ばれていますが、これは正式名称ではありません。
ではその正式名称が何かと言えば、こちらの選挙管理委員会の正式ホームページをご覧ください。<HP写真 掲載略>
この公式HPに強調されているように、それは正式には「大阪市廃止・特別区設置」住民投票です。つまりこの選挙は、「大阪市を潰して、その代わり特別区を設置しますけどいいですか?」ということを大阪市民に問う選挙なのです。
ところが、「大阪都構想大阪市が廃止される」ということを知っているか否かを大阪の方対象にアンケートを行ったところ、的確にその事実を知っている人は全体の8.7%しかいないことが明らかになりました。
このままでは、大阪市民は、「都構想についての最低限の事実」も知らないままに単なるイメージで判断し、「間違った選択」をしてしまう危険性が高いと言わざるを得ません。
事実、大阪都構想大阪市廃止に賛成している人々の最大の理由が「二重行政の解消」なのですが、よくよく調べてみると、そのような「メリット」は実はもはやほとんど存在しない、としか言えないのが現状となっているのですが――そうした実情もほとんど知られていません。

<中略>

二重行政の解消効果が「ゼロ」に…
都構想が主張されはじめた当初は、都構想が実現すれば二重行政が解消し、年間4000億円の財源が浮いてくる、それが最低ラインだと主張されていました。
ところが、大阪府市が取り組んだ13年8月の制度設計案では976億円に激減。日経新聞にも、『「年4000億円」目標に遠く及ばず』と報道されます 。
こうした激減には、市会での追求や批判を受けて、過大推計が徐々に暴かれたていった、という背景があります。
実際、この数字の中にも「二重行政解消」とは無関係の項目(地下鉄の民営化や市独自で実施している市民サービス削減)が含まれている旨も、同じ記事の中で報道されています 。
結果、2014年6月の行政の試算では、「都構想の実現とは関係の無い項目」を差し引けば、二重行政の「無駄」なるものは、年間約1億円に過ぎないことが明らかにされました。
これが、「前回」の住民投票前の状況だったのですが、当然ながら「二重行政の無駄」が実質的にはほとんど無いという状況は変わっていません。
というよりむしろ、5年前に指摘された僅かな二重行政についても、現状制度下で見直しが進み、遂に令和2年8月21日の大阪市会(臨時会)で松井市長が「今、二重行政はないんです」と言明するに至っています。
つまり今や、当初言われた「年間4000億円もの二重行政の無駄」の全てが完全に消え去っているのであり、したがって、大阪都構想を推進する合理的な根拠などもはや存在しなかった、ということが明らかになっているのです。

なお、「都構想」を実現すると、現在の行政は、初期費用で240億円が必要であり、毎年のランニングコストも年間約30億円もが必要とされる、ということを明らかに示しています。
つまり、推進派が主張するような「都構想で合理化して出費を減らす!」というストーリーは完全に間違っており、むしろその逆に「都構想で無駄な出費が増える」というのが実態なのです。
(*このあたりの詳細は、『都構想の真実』をご参照下さい)

都構想で「要らぬ対立」が増える
以上の議論は、5年前から繰り返し指摘され続けてきた話であり、したがって今や、推進派も「都構想で数千億円のカネが出てくる!」というストーリーをあまり言わなくなりつつあるようです。
その代わりに今、推進派が盛んに主張しているのが「都構想で府と市が一本化すれば、府と市の対立が無くなり、行政が円滑化して、成長できるようになる!」というストーリーです。
いわば「二重行政があるから対立がある、これを一重化(一本化)すれば対立がなくなる」というロジックです。
しかしこのロジックは、地方行政の仕組みを少しで知る人からしてみれば、これは驚くほどに幼稚なものなのです。

そもそも、都構想が可決すれば、大阪市が四つの特別区に分割されます。そうすると、これまでは存在しなかった、特別区同士の対立が生まれることになるからです。
すなわち今日では大阪市内の各区は「大阪市」という一つの大きな家族の中の一員として激しく対立することなく一定の調和を保っているのですが、都構想になればわざわざその家族を取り壊して四分割してそれぞれ「独立」させるわけですから、これからはその独立した四つの区同士の対立が顕在化することは必至なのです。
例えば、産業やビジネス拠点が集積し、財源が抱負な北区と、居住地区がメインで、財源が貧困な天王寺区とでは、利害が激しく対立することは必至です。
オカネの無い区はオカネのある区に「もっとオカネをだして共同の事務をやるべきだ」と主張しますが、オカネ持ちの区は逆に「共同でやったってメリットなんて無い。俺は俺、お前はお前で別別にやったら良いじゃ無いか」と主張することになります。
こうして、今まで争いがさして無かった大阪市内の区同士の関係が、大阪市が解体されることで一気に険悪化し、「骨肉の争い」とでも言うべき状況が生まれるのです。
(なお、この問題は一般的に言えば「一部事務組合」による「三重行政」問題とも言い得るのですが、話が細かくなりすぎるので、そのあたりについてもまた拙著『都構想の真実』をご参照ください)

<以下略>

 その他、上の藤井氏を含めた学者たち26人による反対意見もある(下、参照)。

<大阪市廃止>学者26人が記者会見 「コロナ不況下での廃止は『破滅戦略』」(アジアプレス・ネットワーク) - Yahoo!ニュース


 直近の調査によれば、賛成・反対の世論は五分五分に近いそうだ。大阪の人たちには将来後悔しない選択をしてくれることを願っている。





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