ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「前門の虎 後門の狼」

「前門の虎 後門の狼」、「進むも地獄 退くも地獄」……「地獄」というのは言い過ぎだが、自ら「八方塞がり」に陥っている感じがする。

 共同通信柿崎明二氏首相補佐官に据え、オフレコ懇談会、「グループインタヴュー」……と、メディア対策に自信を見せてきたスガ政権だが、今回の日本学術会議の会員任命拒否の問題は隠し通せない大きな躓きとなっている。任命拒否の明確な理由を説明せず、日本学術会議の組織自体の改編が必要などという論点すり替えによってかわすつもりだったようだが、そもそも学術会議の再編など、コロナ禍の非常事態に優先的に時間を割くべき問題ではない。冷静に損得勘定をすれば先週のうちに「名誉ある撤収」も可能だったはずだが、スガ自身の性格も災いしたのか、「意固地」になったあげくに、自ら「105人の推薦者名簿を見ていない」と言い出し、問題は“二重、三重”に違法性を帯びてきている。もし、このまま突き進めば、忖度官僚の暗躍を刺激して再びあの「森友問題」のような悲劇が起こらないかと心配になる。

 この問題はこの先どう進むのだろうか。検察庁法改正のときのように「辻褄合わせ」の関連法改正を強行するのだろうか。しかし、Go to キャンペーンにもかかわらず(というか、“それゆえに”の部分も相当大きい) コロナ禍による失業や倒産・廃業は増え続けている。総選挙も1年以内に迫る中、これに時間を割いて着地点を外せば、国民の政権不信はさらに増すだろう。

 この件で、弁護士の郷原信郎が10月7日付の記事の中で次のように書いている。これはスガの「見ていない」発言の前に書かれたものである。

「日本学術会議任命見送り問題」と「黒川検事長定年延長問題」に共通する構図(郷原信郎) - 個人 - Yahoo!ニュース

<前略>
日本学術会議会員任命見送り」問題の今後の展開
では、「日本学術会議任命見送り」の問題は、今後、どのような展開になるだろうか。
日本学術会議側は、少なくとも、6人の推薦者の任命見送りについて、納得できる理由が示されない限り、6人以外の推薦を行うことは考えにくい。引き続き、6人の任命を求め続けることになるであろう。同会議にここまで国民の関心が集まった以上、「6人欠員」という「日本学術会議法7条1項違反」の状態を放置することはできず、その問題が決着しない限り、日本学術会議の正常な運営は困難となる。
この問題に関して、菅首相は、5日夕刻、内閣記者会のインタビューに応じ、その中で、

日本学術会議については、省庁再編の際、そもそもその必要性を含めてその在り方について相当の議論が行われ、その結果として総合的、俯瞰的活動を求めることにした。まさに総合的、俯瞰的活動を確保する観点から、今回の人事も判断した。

と述べた。
菅首相が、会員の任命を「日本学術会議の必要性を含めた在り方の議論」「総合的、俯瞰的活動を求めること」に関連づけて説明したことによって、任命見送りの理由も、日本学術会議の在り方論に関連づけて説明せざるを得ないことになる。そうなると、会員の推薦・任命の在り方について政府として何らかの立法が必要となり、同会議の在り方論、同会議の存廃をめぐる国会での議論に発展することになる。

今回の任命見送り問題が表面化するや、保守系の論者から、「日本学術会議の見直し・廃止論」が声高に唱えられている。日本学術会議は、設立以降、「学術研究を通じて平和を実現すること」を最大の使命としてきたのは、戦前、学術研究が軍事に使われることを前提とする研究が進められてきたことへの反省があったからである。そういう日本学術会議の存在は、保守系論者からは、現実離れした「非武装中立論」のように扱われ、攻撃の対象とされてきた。確かに、学術研究の活用について民間と軍事とを峻別することは容易ではなくなっており、「学術研究の軍事利用の否定」が、どこまで徹底可能かについて疑問がないわけではない。しかし、その点は、日本国憲法が掲げる平和主義そのものにも関連し、憲法問題にも関わる問題だ。背景には深刻なイデオロギー対立もあるだけに、議論の収束は容易ではない。コロナ感染対策、コロナ不況に対する経済対策、来年夏東京五輪開催の是非など、多くの重要課題が山積する中で、国会で、そのような問題に時間を費やすことが果たして適切なのだろうか。

何より重要なことは、日本学術会議は、これまで比較検討してきた「検察」の問題とは異なり、「権限」や「強制力」を持つ機関ではないということだ。日本学術会議がどのような基本方針で活動しようと、それが、政府の施策に対して直接的な作用を及ぼすものではない。そのような同会議について、政権が、政治的・イデオロギー的動機で、政府に批判的な研究者を排除する目的で任命見送りを行ったとすれば、学術研究の世界全体を、政府の方針を是認する方向の議論に誘導しようとする「学問の自由」への介入そのものであり、ひいては、研究者全体に政府に批判的な言論を控えさせる「言論の自由」の侵害にもなりかねない。

菅政権が、このまま6人の任命見送りの姿勢を維持し、「学問の自由」への介入を改めようとしないとすれば、日本学術会議の在り方自体について国会で本格的議論や法案提出をすることにならざるを得ないだろう。それは、黒川氏の定年後勤務延長問題の事後的正当化のための検察庁法改正案国会提出が、安倍政権にとって大きな打撃になったのと同様に、発足したばかりの菅政権にとって、政権の基盤を崩壊させかねない重大なリスクに発展する可能性がある。



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