ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

竹中平蔵と「デジタル改革」

 『論座』にジャーナリストの佐藤章さんの連載記事がある。IT分野の知識がないので、やや及び腰で読んだが、ここにも利権と腐敗が渦巻いていることを知った。この「ガラパゴス」化による“技術大国”の斜陽化にはさもありなんと思いつつも愕然とする。さらに、そこに、「先進」という名の「錦の御旗」をつけた外資(「黒船」?)が割り込もうとし、その露払い役を竹中ヘイゾーが務めるという……またまたゾンビの復活劇を見せられるのだろうか。
 佐藤さんは、竹中ヘイゾー氏が新たに創設されるデジタル庁の初代長官に就任するという仰天情報があると書いている。いち早く8月28日のアベ辞任情報を伝えた方だけに、ガセとも思えない。

 10月から次期政府共通プラットフォームが米国企業AmazonAWSAmazon Web Services)のクラウド・コンピューティング・サービスに移行する背景を知り、暗澹とした気持ちになった。

 以下、佐藤さんの記事:9月28日付「アマゾンに日本政府のIT基盤を丸投げする菅政権~NTTデータはなぜ敗北したのか 菅政権「デジタル改革」の罠(2)」と9月29日付「デジタル庁初代長官は竹中平蔵氏!? 菅政権「デジタル改革」の罠(3)」より、部分引用する。 

アマゾンに日本政府のIT基盤を丸投げする菅政権~NTTデータはなぜ敗北したのか - 佐藤章|論座 - 朝日新聞社の言論サイト

<前略>
「台湾のオードリー・タンは日本には出てこない」
 IT社会全体がオープンソース体制を取っているために若者のITベンチャー企業がどんどん出てきている。このためにIT社会全体のイノベーションが日々新たになり、韓国はIT五輪の世界で常にメダル争いを演じるまでに成長した。
 翻って日本は、ITゼネコンだけが、外界から閉じた秘密のソースの中でいつまでも随意契約で楽な儲け口を見出しているクローズドソース体制によって、技術のイノベーションは衰え、IT業界全体が没落の道をたどっている。韓国がメダル争いを演じている一方、日本は10位台から20位台をウロウロしているのが現状だ。

 「日本人は不思議なんですよ。自分たちは何か科学技術に非常に優れた民族で日本製品は素晴らしいと思っている。確かにそういう時代はあった。だけど、今や全然そうではない」
 日本有数のセキュリティ設計専門家はこう言葉を継いだ。
 「日本製のコンピューターのモニターなんかもう存在しないですから。ぼくはここ20年、一貫してLGのモニターしか買っていませんが、やっぱりLGは素晴らしいですね」
 LGエレクトロニクスサムスン電子に次ぐ韓国電機業界のナンバー2。同社の液晶モニターのシェアは世界トップクラスだ。
 まだ日本のIT技術が世界トップレベルにあると思われていた2000年のころ、この専門家が韓国で講演したことがある。その時、会場の収容能力2000人のところを5000人が詰めかけ、講演の後半は質問攻め、ホテルに引き上げてからも韓国の自治体関係者が質問のために部屋に押しかけてきた。
 当時の韓国は日本のIT技術を吸収するためにそのくらい貪欲だった。ところが、今や韓国のIT企業のホームページを開くと、この専門家でも教わりたいくらいの技術が載っているという。
 「もう韓国には勝てないです。いや勝つ勝てないじゃなくて、もう日本はキャッチアップもできないでしょう」
 専門家はこう話し、さらにこう続けた。
 「日本のITゼネコンには秀才が100人いるんですよ。だけど、秀才100人は一人の天才に勝てないんです。それがコンピューターセキュリティの世界なんです。日本ではみんなで天才の足を引っ張る。『お前は静かにしてろ』というわけです。だから、台湾のオードリー・タンは日本には出てこないんです」

国内IT産業は消失の危機
 言葉を変えて言えば、クローズされた縄張りの中で随契の儲けを稼いでいくITゼネコンの世界では、「天才」の頭に閃くイノベーションはむしろ邪魔になる。
 オードリー・タンのいない日本のITゼネコンは、最初の政府共通プラットフォームの構築に失敗した。NTTデータが中心となって構築するはずだったが、2016年9月、会計検査院はあらゆる面で「不十分」と指摘した。
 さらに2018年には、利用実績がゼロだったために約18憶円かかったこのシステム自体をそのまま捨ててしまう事態にまで追い込まれた。
 昨年5月、この失敗の後を受けて、次期政府共通プラットフォームの設計・開発などの請負業務一般競争入札があった。落札したのはアクセンチュア。同社はAmazonAWSの利用を前提に設計を進めていたようだ。
 この点は発表がないためよくわからないが、専門家によれば、Amazonクラウド・コンピューティング・サービスによる次期政府共通プラットフォームの試験走行はすでに相当の距離を走っているのではないか、という。
 菅首相は9月25日、自治体のシステムについて、「全国一斉に迅速な給付を実現するため、25年度末までをめざし作業を加速したい」(9月25日付朝日新聞夕刊)と述べた。
 また、マイナンバーカードについても、2022年度末にはほとんどの国民が手にするよう、普及策を加速するように指示した。
 ここまで書けば、菅首相の頭の中はCTスキャンをかけたようにはっきり見えるだろう。
 つまり、菅首相が考えていることは、国内ベンダーはどこも頼りないから米国のAmazonに日本政府全体のIT基盤構築を全部やってもらおうということだ。そして、新政権最大の目玉のデジタル庁はその露払い役というわけだ。

 「みんなで黒船に乗って改革してもらおう。みんなで乗れば怖くない」
 菅政権の本音の合言葉は恐らくこのようなものだろう。しかし、本当に「怖くない」のか。
 例えば、これまで政府共通プラットフォーム構築のイニシアティブを執ってきたNTTデータは今後確実に退いていく。同じように、他の中央省庁システムを担当していたITゼネコンの業務も確実に縮小していくだろう。
 確かに、これまで見てきたように、日本のITゼネコンの業容縮小は自業自得の面も少なくない。
 しかし、一国の経済政策、産業政策の側面から見れば、自前のIT産業全体の消失にまでつながりかねないこのような政策は、とても歓迎できたものではない。もっとはっきり言えば、21世紀の産業を引っ張るIT技術を自ら捨てるこの政策は、まさに亡国の政策だ。

 確かに長年続いてきた自民党政権はIT業界の構造的な重大問題に目をつぶり、問題を放置してきた。しかし、専門家や学者らが議論を重ねれば、日本のIT産業をきちんと守りながら業界全体に改革を促し、政府共通プラットフォームの構築についてもソフトランディングさせる方法が出てきたかもしれない。
 私は菅首相に問いたい。その道を模索する努力も払わず、黒船に乗ることを簡単に決めてしまったのはなぜなのか。


デジタル庁初代長官は竹中平蔵氏!? - 佐藤章|論座 - 朝日新聞社の言論サイト

<前略>
ベーシックインカムマイナンバー
……竹中氏は、今回、菅氏と1時間あまり会食した5日後の9月23日、BS-TBSの「報道1930」に出演して、独特のベーシックインカム論を披露して注目された。
 ベーシックインカムというのは、全国民に一定額を無条件で給付し続ける政策だが、竹中氏の論点が独特なのは、その額が毎月7万円という点と所得が一定以上であれば後で返却するという点にある。
 そして、この点はあまり注目されなかったが、その所得を捕捉するためにマイナンバーと銀行口座を紐づけることを前提とするという論点も主張された。
 竹中氏は国民一人当たり7万円のベーシックインカムを導入する財源として現在の公的年金資金や生活保護費を充当させるとしているが、その主張について言えば、毎月支給されるというその金額の低さに驚く。また、現在の社会的セーフティネットを消滅させる論点からして、時代の進展からはるか遠くに取り残されたネオリベの残映とも言える。
 ネオリベは「自由」に第一の価値を置くが、現代資本主義経済社会の中で「自由」を最優先させれば当然弱肉強食の社会となる。竹中氏独特のベーシックインカムを導入すれば、現在の生活保護世帯はたちまちのうちに経済的破綻に追い込まれてしまう。

 同じようにAmazonという世界的強者に政府共通プラットフォームを完全に委ねれば、日本のITメーカー、IT産業は衰退のスピードを加速させるだろう。それどころではない。
 「将来は、日本政府の基幹システムにタッチできる日本のエンジニアは一人もいなくなるだろう。外国の企業に基幹システム構築を任せる国なんか一つもありません。これは一種の売国です」
 政府系のシステム設計を手掛けた専門家はこう問題を指摘するが、その論点は実に深刻だ。
 「韓国はもちろん自分で基幹システムを構築していますが、中国や北朝鮮、米国などはそれだけじゃなく、ハッカーを国家として育てています。こういう海外からのハッカーから自国のシステムを防御するには、実際の経験を積んで技術や知識をアップデートしないと太刀打ちできません。Amazonに基幹システム構築を任せたことで、今後はそういうエンジニアはいなくなり、もうずっと海外に頼らざるをえないでしょう」

デジタル庁の初代長官
 2011年10月、私は野党時代の菅義偉氏に何度か会い、連絡を取り合いながら一つの仕事を共有していた。福島第一原子力発電所事故の国会事故調査委員会メンバー選びだった。菅氏は野党の立場にありながら、このような仕事には隠然たる力を持っていた。
 すでに時効を過ぎたから書いてもいいと思うが、この時私は菅氏から相談を受け、メンバーの一人として、脱原発の理論的支柱である元原子炉設計者、田中三彦氏を強く推薦した。
 私の説得に応じた菅氏は積極的に動き、田中氏の委員委嘱を実現させた。この時の菅氏に対する私の印象は、静謐な物腰の中にしばしば光る眼光と忠実かつ着実な姿勢だった。これは推測に過ぎないが、竹中氏の雄弁な説得を静かに忠実かつ着実に受け入れる菅氏の姿が見えるような気がする。

 しかし、……竹中氏の説得を静かに受け入れるということは、文字通りの亡国政策を採用することを意味する。
 まず第一に、国民のあらゆる情報がAmazonのサーバーの中に入り、日本政府の外交、防衛機密情報までAmazonやその後ろに控える米国政府に漏出する恐れが生じる。Amazonは経営陣や技術者、企業形態も多国籍であるため、情報漏洩先は米国以外さえ考えられる。
 第二に、日本政府全体の基幹システムだけでなく、各省庁や自治体の個別システムも基幹システムに移っていくため、日本国内のIT企業は大きい打撃を受け、消滅の危機に陥る企業が出てくる可能性もある。
 さらには日本のITエンジニアを育てる技術的土壌が小さくなり、21世紀の日本経済を先導すべきIT産業自体が急速に衰えていくことが推測される。
 これら最悪の結果を招来する亡国政策は、当然採用してはならない。しかし、私が得た最新情報では、AmazonAWSクラウド・コンピューティング・サービスは次期政府共通プラットフォームのためにすでに1年近い準備走行を終え、事態は取り返しのつかないところまで来ているようだ。

 また、私が間接的に聞いている話では、菅氏は当初デジタル改革相や総務相に竹中氏を充てる案を考えていたが、社会的な反発を恐れた二階氏に止められたようだ。さらに、来年の設置を急いでいるデジタル庁の初代長官には竹中氏を就任させるという仰天情報も耳にした。
 そうなった場合、日本経済は衰亡の坂を加速度的に降り、外交、防衛をめぐる情報戦では常に劣勢に立たされ、国益を大きく損なう恐れが強い。三島由紀夫ではないが、強い「憂国」の情を覚える。



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