ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

コロナ禍 通り過ぎるのを待つ日本人

 ドイツ在住の作家、多和田葉子さんのインタビュー記事を見た。コロナ禍という危機に向き合うドイツと日本のちがいの描写が興味深い。コロナにうち勝とう、人間の手で何とか克服しようとするドイツ人に対し、日本人は、台風のようにコロナが通り過ぎるのを待つ、それまでうつむいて我慢しているという指摘は、的を得ている感じがした。しかし、こういう姿勢はコロナ感染や自然災害に対してだけでなく、いろいろな場面で現れるものだろう。我慢強いのは悪いことではないと思うが、自然治癒を待っているうちに手遅れになることだって考えねば……。

 アベはやっとのことで通り過ぎようとしているが、「アベ的政治」は我慢しているだけでは通り過ぎることはない。

 以下、朝日新聞デジタル9月3日付記事からの引用(聞き手 吉村千彰氏)。 

ただコロナに耐える日本は不思議 多和田葉子さんの視点:朝日新聞デジタル


 ――ドイツ政府はコロナ危機への対策や支援を早く打ち出しました。
 「老人を支援し、医療を拡充し、零細企業、個人経営店、芸術家などを助けると表明、すぐに支援金も出ました。そこまではすごい。しかし、後で審査があって、必要なかった人は返金しないといけない、しかも返せなかったら罰せられる場合もあるそうです。大企業は法律対策をしていて大丈夫でしょうが、たとえば芸術が本当に守られたのかはまだ分かりません」
 ――不満も出てきていますか。
 「国内旅行は普通になっていますが、マスクの義務化に抵抗感を持つ人は多いです。罰金があるので無理してマスクをつけていますが。危険な圧力だという人もいますし、人権侵害だという人もいます。リベラルや左翼系はマスクを支持していますが、右翼系がマスクは国家権力による弾圧だと反発しています。隠れた不満が出てきて、社会のバランスが崩れる危機を感じてもいます」
 ――ドイツからは日本はどう見えますか。
 「日本は本当に不思議な国です。政府はなぜか何も対策を取っていないみたいで、逆に国民は社会全体のことを心配して自分でできることを進んでしている」
 「ドイツは個人の自由を大切にするので、自由を制限する時は法的に縛ります。地下鉄内でマスクをしていなければ罰金を払わなければいけない、などというのもそれですね。日本は法よりも『人の目』という見張りがあり、それが危険な面もあるし、機能しているという面もある。日本人が個人主義になったら、全く別の政治機構が必要になるでしょう。ドイツのように素早く議論して規則を決めるという仕組みは長い歴史と背景があってできることで、日本はすぐにはそうならないと思います」

<中略>

 「今回、自分の反応が日本人っぽいかもしれないと思うこともありました。何か危機が始まると、無口になって自分の中にこもりがちになるのです。おかげでいつもは読んでいられない厚い本などいろいろ読めましたが、そうやって危機が終わるのを受け身で待っている。そのわりにウイルスそのものへの恐怖感は薄く、自分が感染するという実感がもてない。ドイツ人は危機が始まると討論欲がますます強まるみたいです」
 ――ドイツに住んで38年になり、世界文学の担い手でもある多和田さんが、コロナ危機下で日本人であることを意識したと?
 「日本人であるというより、日本で育ったせいで日本の歴史や社会に思ったよりずっと深い影響を受けている自分に気づきました。ドイツに長く暮らしているからこそ感じたことだと言えるかもしれません」
 「ふだんは私的生活の枠内で暮らしていて、自分の感覚もその中にありますが、社会に軋轢(あつれき)が生じたときや社会全体が大きく揺れたときは、自分という単位では足りなくなるようです。政治や社会を語る気がなくても、社会の一部としての自分を感じ、個人的立場からだけでは自分について語ることができなくなるのです。東日本大震災の時には今以上にそれを感じました」

 ――危機の感じ方や感じたときの行動が、日本と欧州では違うということでしょうか。
 「日本では、危機があっても危機ととらえないようなところがあるのではないでしょうか。日本は自然災害が多いし、飢饉(ききん)や貧困も遠い過去の話という感じはしないですよね。危機があっても騒ぎ立てず、うつむいて耐えるようなところがあります。ドイツやまわりの国を見ていると、それが現実かどうかは別にしても、衣食住に困らない社会をかなり前に実現し、自然災害がほとんどなくなるところまで自然を征服した、という自覚を持って生活しているような印象を受けます。新しい問題が起こってもそれを人間の手で解決できるという自信があるのか、コロナ禍も大きな危機としてとらえ、いい方策を考え出して乗り越えるんだ! 征服するんだ! という能動的な態度で接しているようです」
 「日本は、じっとうつむいて待っていればコロナは自然と去っていく、と思っている人も多いのではないですか。ただ、うつむいてしまうと、世界の状況が見えなくなってしまいます。うつむいている人たちを揺り起こしたい、危機なんだと揺さぶりたい、大きな風景を見せたい。そんな気分です。だから危機を感じさせる言葉、呼び起こす言葉が自然とわたしの小説の中に入ってくるんだと思います」




社会・経済ランキング
にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ
にほんブログ村