ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

台湾オードリー・タンさんの話

 コロナ禍に国内の在庫が一目でわかる「マスクマップ」開発に成功し、日本でも一躍その名が知られるようになった台湾のオードリー・タン政務委員。8月3日にハフポストと早稲田大学ビジネススクールが共催でインタビューした記事(日本語訳)を見つけ、大変おもしろく読んだ。政治や民主主義社会にかかわる部分だけ以下に引用してみる。


オードリー・タン「日本人は未来に住んでいるようだった」。台湾の天才大臣が語った来日時の記憶 【インタビュー全文:その①】 | ハフポスト


――日本では政府の新型コロナウイルスの感染者が増加して、政府の支持率が低下しています。一方、台湾では政府と国民の間の信頼関係があると感じています。台湾と日本ではどんな違いがあると思いますか?

タンまず最初に、自由民主主義がそうであるべきように、新型コロナウイルスパンデミック後に起きた全てのことには、多くの疑問が生じ、検証が必要です。
その上でお話しすると、先ほど述べたSlackチャンネルやマスクマップのようなシステム、そして大気汚染や水汚染などの問題は、パンデミック前にすでに存在していました。
私が “リバース・プロキュアメント(買い手が売り手を選ぶ)”と呼ぶ、g0vスタイルのコラボレーションの鍵は、すでに市民社会の間に存在していたのです。
技術者はすでに国民の間で高い信頼を得ており、彼らはただインプットするチャンネルを、PM2.5の数値からマスクの在庫に変えればよかった。そのやり方や配布方法は、一般の人や公務員からもすでに信頼を得ていました。
その信頼は、一晩で勝ち得たものではありません。私たちは過去5年の間に、数々の改革やオープンな政府を通して信頼を築いてきました。
同じことが、例えば電子フェンスなどの入境検疫システムなどでも言えます。
電子フェンスは、ホテルで隔離されない隔離対象者のスマートフォンに入れるシステムで、隔離対象者がフェンスの範囲を超えた時に、SMSが地元の警察に送られます。
電子フェンスのような仕組みを、他の多くの地域で利用するのはとても難しいと思います。議論が起きるでしょう。
しかし台湾ではこれと同じようなシステムを、地震や洪水や台風警報などに使ってきました。電話基地局による三角測量をベースにしたもので、利用者はアプリをインストールする必要も、GPSも必要もありません。SMSは自動的に送られ、データは一定期間保管された後は破棄されます。利用者はそのことを理解していました。
このシステムの利用は、パンデミックの前にはすでに当たり前になっていました。ですから私たちは、パラメーターを微調整すればよかった。もしパンデミックが起きた後に新しいアプリを発明しなければいけなかったとしたら、台湾はとても厳しい状況に置かれただろうと思います。
それが日本と台湾の大きな違いだと思います。

――日本は投票率が低く、台湾と比べて政治への関心が少し薄いと言われています。そういう中で、デジタル民主主義はどこまで意味を持つでしょうか。

タン2013年に台湾の街で「政治に興味がありますか?インターネットで、政治活動や署名活動に参加しますか?総統杯ハッカソンに何か提案はありますか?」と質問したら、変人扱いされたでしょう。
これは2012年末にg0vができた理由でもあるのですが、多くの人は、政治は政治家がやるものだと考えていました。たとえSNSでデモを呼びかけて1万いいねされても、現場にはほぼ誰も現場に来ないという状況でした。「助けはないだろう」という感覚があったんだと思います。
ですから政治に興味がない状態は、馴染みがあります。台湾は6年かけて変わっていきました。
しかし、その後起きた
国会占拠などの出来事*により、台湾の人々の政治に対する興味は一気に高まりました。
もちろん、日本でも国会を占拠すべきと呼びかけているわけではありません。しかし、多くの人が気にする課題を見つけ、それが大規模な活動になれば、克服し変わっていくでしょう。

*国会占拠などの出来事 :2014年に中国とのサービス貿易協定の強行審議に反発した学生たちが立法院に突入。23日間占拠した「ひまわり学生運動」を指す


オードリー・タン「台湾の大臣は、35歳以下の若手にアドバイスをもらう」→政治を変える方法がすごい【インタビュー全文:その②】 | ハフポスト


ーー情報を公開することには大きな価値がある反面、例えば「犯罪者が外国人に多い」という情報だけが流れた時に、背景を配慮しないまま差別に繋がってしまう可能性もあります。情報の民主化のために、そういった問題をどう回避できるでしょうか。

タンリバースメンターをした2014年に、私たちもこの問題に取り組みました。そして多くのことを発見しました。
例えば台湾の内政部は、大雨や台風による土砂崩れで、一定の地域がどれだけの損害を受けるのかを示すデータを公開しようと考えていました。言い換えれば、地理的にどれほど脆弱かを示すデータです。
しかし情報の公開に対して、反対がありました。脆弱だとされる場所に住んでいた人たちは、事前に備えられるという意味では感謝していました。
しかし、実際には土砂崩れの被害にあわないような場所であっても、危険区域とされれば土地の価格は下がってしまいます。また中には、建物の物理学的な理由などから、被害にあう危険性が少ないケースもあります。
そういったことについて、地方自治体から抗議を受けました。そこで私たちは彼らと何カ月間にもわたる交渉をして、地方自治体が内政部と同じデータをさらに細かく、建物レベルまで公開することで最終的な合意に達しました。
そのデータには、脆弱とされる場所にはどんな問題があるのか、土砂崩れが起きるとしたらどの経路を辿るのか、といった詳細な情報が含まれていました。そのため人々は不必要にパニックにならずにすみますし、再発防止策も話し合えます。
私は、データはより詳細でより現場に近く、できれば実際にデータから影響を受ける人たちによって作られている方が好ましいと思っています。
この一件以来、各省庁が様々な分野でオープンデータ審議会を開き、その審議会が全てのデータに目を通して、データを非公開にするのではなく、解決策として使うようにしています。
もちろんプライバシー保護は必要です。私たちは個人情報は公開しません。そして新しいデータを公開するには、全ての利害関係者に確認します。
その上で、情報は多ければ多いほど良くなり公平になると私は思います。


オードリー・タンが心に余裕を持つ秘訣 【インタビュー全文:その④完】 | ハフポスト


――台湾では前回の総統選の投票率は、74.9%でした。日本に比べるととても高いのですが、なぜ台湾の人々は選挙に行くのでしょうか?

タン2つの要素があると思います。
まず最初に個人的な話をすると、20歳になって初めて選挙で、私は休みを1日とって住民登録地まで戻りました。それは行政区長を選ぶ選挙だったと思うのですが、とても小規模な選挙でした。そして、私が投票した候補が1票差で勝ったのです。この一票の力が、私に刻み込まれました。
もし私が帰省して投票していなければ、応援していた候補は当選しなかったかもしれない。この時に、自分の選択には大きな力があるということを気づきました。
他にも、小学校や、生活協同組合などで様々な選挙があります。一つ一つのスケールは小さいかもしれませんが、たくさんの選挙に参加すればするほど、全ての投票が重要なものだということが刻み込まれます。それが、投票率を高くするための鍵だと思います。
もう一つ重要なことは、選挙が社会の団結を示すということです。台湾では開票プロセスを全ての人に公開しています。人々は投票ブースにやってきて開票作業を見ることができます。
録画も許されていて、ユーチューバーも開票作業を見にやってきます。こういったプロセスを通して、選挙の透明性と公平性を示すだけでなく、開票作業を社会全体が祝うことができます。
開票作業は社会全体が楽しむものであり、社会的なセレモニーです。それがとても重要だと思います。

――透明性と民主主義を達成するために市民にビジョンを伝えることが大切だと思いますが、オードリーさんはどんなビジョンをお持ちなのでしょうか?

タン私のビジョンはTwitterにピン留めされています。なので、Twitterを見ていただけるとわかると思います。そしてこれは私の仕事の内容でもあります。
とても短いので、読みあげます。

モノのインターネットを見たら、ヒトのインターネットにしよう。
仮想現実を見たら、共有の現実にしよう。
機械学習を見たら、共同学習にしよう。
ユーザー体験を見たら、人間体験にしよう。
シンギュラリティ(特異点)が近いと聞いたらプルーラリティ(複数の可能性)がここにあると思い出そう。

――最後に、日本はどうすれば、もっと多様でイノベーティブになれるでしょうか?

タン: その質問には、レナード・コーエンの詩でお答えしたいと思います。

「まだ音の鳴るベルを鳴らそう / あなたの完璧な申し出のことは忘れて / 全てのものにはヒビがある / そこから光が差し込む」

この詩を通して私が言いたいのは、不正義や何かに注目が集まっていないことに対して怒りを感じている時には、その怒りを建設的なエネルギーに注ぎ込もうということです。
その時に問いかけるべきなのは「この不正義が二度と起こらないために、私たちは社会としてどんな行動ができるだろう?」という問いです。
その問いを、怒りに対して抱き続けることで、怒りは建設的なエネルギーになります。
そして、誰かを攻撃したり何かを非難したりせずに、前向きな新しい未来のための原型を作る道に止まることができます。
あなたが見つけたヒビに他の人たちが参加し、そこから光が差し込みます。




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