政策の議論は国会で行われるべきものだが、その国会が早々に閉じられてしまった。まあ、かりに開かれていても、作文朗読と的外れな無駄話が延々と続き、質問時間が浪費されていくばかりだろうとは思う。野党が別途官僚に答弁させる「ヒアリング」を始めたのもそうした背景があるからだろうが、これもだんだんと惨たらしいものになってきている。
7月28、29日に例のアベノマスクの追加発送について「野党合同ヒアリング」が行われ、野党議員が厚生労働省の職員に質した。国民の多くはもうマスクを必要としていないし、供給量も安定している。ウィルス防御効果のないマスクを、なぜ“意地になって”8千枚も追加で送り付けようとするのか……と。このやりとりを7月30日付朝日新聞デジタル配信記事から引用する。
布マスク「一応、鼻は覆える」 野党の追及に厚労省は… [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル
《7月28日》
議員側(以下、議):通常の紙マスクがこれだけ流通している中で、これから8千万枚の布マスクを介護施設や障害者施設などに配るという。我々からすると常識的に考えられない。実際、布マスクの感染防止効果は今後どれほど期待できるのか。現状で布マスク配布を介護施設や障害者施設、保育所などの現場は望んでいるのか。
厚労省側(以下、厚):原則対象施設のスタッフの方、それから利用者、それぞれに対して配る。2千万枚の(配布をした)段階で1人1枚ずつ、4千万枚の段階で2枚ずつ、8千万枚の段階で4枚ずつとおおむね(計)7枚にわたるという段取りで進めているところ。
布マスクについて。繰り返しで恐縮だが、飛沫(ひまつ)の飛散を防止をする効果。不織布マスクの需要抑制の効果、それから今後の感染の備え。そうしたもので継続的な配布は有意義であると考えておりまして、従前の計画通り配布を継続しているところ。
厚生労働省に対しては、施設の団体から、感謝するという言葉をいただいている。いろんな声があることは承知していますが、感謝する声もたくさんいただいている。コールセンター、あるいは私どもに対して、直接、電話いただいているのも事実。布マスクの配布については感謝の声があると考えている。
議:どこの製品か。なんであんなに小さいのか。飛沫防止であれば顔を覆わないといけない。鼻も覆わないといけない。あごも覆わないといけない。でも覆えないじゃないですか。………<中略>………
厚:大人のサイズですので、一応、鼻は覆えるサイズだというふうに認識しています。ややちょっと小さめ。
議:そもそも保育所、幼稚園という所から「マスクがないので、政府にもっと送ってくれ」という求め、需要はあったのか。
厚:当時マスク不足の状況の中で、入所者、職員からマスクが必要だという状況の中で、お配りする需要はあったと考えている。
議:それはいつか。今はものすごい安い値段で売っている。50枚で2千円を切るような。供給過剰みたいになっている中で、それでも現場でマスクが足りないですという声があったから、こんだけの数になったという根拠はあるのか。
厚:数字的な根拠ではないですが、そういう声があったというとこに含めてお答えしている。
議:直近の契約は6月22日。この時点でマスクが不足している、流通が逼迫(ひっぱく)している認識はあったのか。
厚:6月22日時点は、必ずしも感染状況がどうなるのか見えない状況の中で、やはりマスクを配ることは必要だろうと考えていた。そのために追加の契約をし、計画通り順次配布を続けた。
議:本当に不思議。6月22日。不織布も十分あった中、あえて政府が税金をつかって配る判断を加藤勝信(厚労)大臣がどういう理由でしたのか、それは国民に説明してもらわないといけない。
厚:その時点で、今後の感染拡大も視野にいれて判断したということ。
議:理由がころころ変わっている。最初政府は「感染防止に効果がある」と。総理も言っていた。途中で変わってきて、「布マスクを配ると需要の抑制になる。自分たちが布マスクを配ったことで不織布のマスクが出回るようになった」と。どこにそんな根拠があるのか。布マスクを配ったから不織布マスクが出回ったという根拠は。
厚:一般論として、布マスクを使うことによって、不織布マスクを使う方が相対的に減ってくると。そのあたりを説明した。
議:布マスクを使っている人は見ない。どこをどうみて厚労大臣は判断したのか。
厚:そこは布マスクが出回ることによって、不織布マスクの需要が抑えられると。一般論として言える。
議:役に立たない、誰も使わないものを、需要抑制効果がある、飛沫が防げると。こんな税金の無駄遣い聞いたことない。誰も使わないもの一生懸命配っている。送りつける。あり得ない。
《7月29日》
……
議:6月22日になって、まだ配布すると。大臣、副大臣は知らないのか。
厚:6月の段階でも大臣にこういう段取りでやると報告し、ご了解を頂いている。契約行為の元になる予算については、国会に諮るものなので大臣に諮って決定をする。こういうスキームで進めるというのは、別途大臣にしっかり報告し、ご了解を頂く。
議:追加発注することに対して、疑義は省内で一人もいなかったのか。
厚:その段階では、このまま予定通り進めるというふうに意思決定された。
議:大臣、副大臣、政務官は誰も異論がなかった。
厚:その通り。
議:需要抑制効果の根拠について。
厚:介護施設等の利用者、職員は約2千万人。1人1枚ずつ配ると、おおむね2千万人。そこを対象としている。布マスクは洗濯をすると繰り返し使える。だいたい20回以上は使える。20回使うとすると4億枚相当。月当たり4億枚になる。その辺りを考えて、不織布マスクの需要抑制につながるのではないかという見込みを考えている。
議:洗濯することで繰り返し使用可能とあるが、改めて現場の事業者に聞いたが、そんなことをしている暇はない。人手不足で、すごく管理が大変。だから不織布マスクをみんな使っている。どういうものが必要か聞いた。消毒液とビニール手袋、防護服。この三つを言う人が圧倒的に多かった。
議:介護施設だと余計に、新型コロナに対して脆弱(ぜいじゃく)性を抱えるご高齢、疾病のある方がおられる。布マスクじゃないでしょ。入り口のところで捨てて、そして次のマスクをするのが普通ではないか。わざわざそれを洗って、何回も使うというはわかりにくい。マスクって使い捨てじゃないのか。
議:明日(30日)から発送だと聞いている。8千万枚。押し売りみたいに配送する。やめることが今日ならできる。その時にどれだけ、予算、税金が使われずにすむのか。
厚:ほとんど納入期限を終えている。大部分が国内に入って、手続きに入っている。どれがどうなっているかというのは最終的にとりまとめができていない。
議:介護現場は誰もいらないと言っている。使わないと言っている、配らないという選択、あるいは希望施設だけに配る選択もあるんじゃないか。実態調査したら希望するところも少ないと思う。
厚:今聞いたところによると、需給状況は落ち着いてきているので、昔に比べたらニーズは落ち着いているという声があるものの、一方、直ちに使わないが、今後に備えて備蓄ができるのでありがたく頂戴(ちょうだい)したいという声も中にはあった。今後の備蓄への活用、必要な施設もあると。
議:(CDC・米疾病対策センターの布マスクが感染予防につながるという見解は)医療用マスクやサージカルマスク、不織布マスクは、4月の時点で、なかなか手に入らないので、密集した所では、布マスクでもよいのでしてくださいと言っているだけ。だから、布マスクに感染防止効果があるとは言っていない。
議:(異物混入などの不良品があったことによる)8億円分の検品はすごい数ですよね。まんべんなくあったということですか。
厚:検品では、引っかかるものは、全体でどこでもあったということです。
議:どこでもあった。不良品率は会社によって変わらなかったということでよろしいですか。
厚:完全に同じとはいえないが、おおむね変化はなかった。数字については今、持ち合わせない。
議:いやいや昨日お願いした。今日中に出してください。
厚:正確にデータを蓄積したものでないので、お時間をいただければということです。
議:予算節減額もまったく精査できていない段階だ。明日の発送は取りやめられないのか。少なくとも予算節減額を示してもらって議論してからでも遅くない。備蓄用でほしいということですよね。だからいつでもよいはず。明日の発送は止めてください。
厚:持ち帰って検討させてください。
議:検討中に、回答せずに発送したらさすがに国民も黙っていません。
ヒアリングに来ている野党議員は“クレーマー”ではないし、“総会屋”でもない。しかし、野党議員に向き合う官僚たちは、公僕として仕事をしているようには見えない。さしずめ「クレーマー対応」、「総会屋対策」と同じ。だから、その場がしのげればよいという感じがする。
6月19日付毎日新聞に、「国家公務員の働き方に関するアンケート」の結果が掲載され、30歳未満の職員の13.1%が数年以内に退職したいと考えているという記事があった。若いキャリアのみなさんが、こういうのを間近に見て何を感じるか……。ため息が出る。