ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

『なぜ君は総理大臣になれないのか』2

 6月13日(土)に封切られてから1カ月余。評判は上々で、このコロナ禍に連日ほぼ満員御礼。けっこう若い世代が見に来ているとのこと。全国で順次公開されるというが、映画館に行けないので早くネットで見られるようになるといいのだが……。

 7月18日付AERA dot.に、“主役”の小川淳也さんと監督の大島新さんにインタヴューした記事がある。小川さんの娘さんの話、本当に泣けてくる。以下に、一部引用させていただく。

映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』で話題の小川淳也衆議院議員 涙で語った娘の一言「父が総理大臣になったら…」(前編) (1/4) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)
映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』が見せた希望と絶望 “勝てない”政治家・小川淳也が語った本音と覚悟(後編) (1/4) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

……小川さんが戦う香川一区には、地元の新聞社と放送局のオーナー一族で、絶対的な地盤を持つ自民党平井卓也*さんが対抗馬にいる。なかなか選挙区で勝つことができず、なんとか比例区で復活当選を果たしてきた。砂粒を積み重ねる労力は小川さん本人だけに課せられるものではなく、小川さんの両親、妻、娘ふたりも同様で、それぞれが悩みながらも選挙活動を手伝う姿が映画には映し出されていく。
*念のために記しておくと、5月13日の検察庁法改正案の審議中にタブレットでワニの動画を見ていて話題になった前科学技術担当大臣。
「ご家族は小川さんの選挙や在り方を語るのに欠かせない人たちで、大きく取り上げました。同時に映画を見てもらうためのテクニカルな要素としても必要不可欠でしたね」(大島)
 家族は選挙運動用ビラを折り、封筒に詰める。有権者に電話をかけて投票を頼む。「妻です。」「娘です。」というタスキを掛けて街頭に立ち、雨の中に並んで「お願いします」と必死に連呼する。その姿には胸を打たれるが、切なくもなる。
「家族のことを考えると、本当にもうしわけないの一言なんですが、まだ娘たちが中学生の頃、僕がいないときに家族3人で近所のラーメン屋さんに行ったそうなんです。そこは娘の同級生の親御さんが営んでいて、その同級生がお店のチラシを配っているのを見て、娘たちが『どの家にもそれぞれ、その家なりの苦労があるんだね』と言ったと聞いて、異常にかけてきた負担の受け入れ方の一つとしてありがたいなと思いました。もちろん、それで言い訳できるほど簡単な負担じゃないですが、ある頃から父親が真剣に社会と向き合おうとしてることを分かってくれるようになりました。『いいことは何もないけど、辞めて欲しいと思ったことはない』と言い始めたんです」映画では最初、まだ幼い姿で登場するふたりの娘さんたち。母親にすがりついて泣いてる姿がいじらしかったが、17年間父の選挙を見つめ、手伝ってきて、今では「小川淳也の娘でございます」と投票依頼の電話かけをする姿がなんとも頼もしい。
「少しまえに大島監督を囲む会があって、ちょうど東京にいた家族も呼びました。集まった人がそれぞれ一言ずつ話をしようとなり、下の娘が『うちのお父さんが永田町にいて、人間関係に絶望せずに来られていることにお礼を言いたい』と言ったんです。映画では僕はダメ人間に描かれていると思うんですけど、娘が『万が一、父が総理大臣になったら私たちの社会が本当に良くなると思います』と言って……あるときから娘たちは父親を父としてだけじゃなく、社会を良くする道具として見ているんですね」
 娘さんの話をしながら、小川さんの目はみるみる真っ赤になって、ハンカチを取り出して涙をぬぐい、声を詰まらせる。その涙は娘たちの成長の喜びか、負担をかけてきた謝罪か、政治家として認めてもらえた感謝か、それとも愚直な政治家としての生き方を貫く自分自身への奮起か。涙をぬぐいながら、さらに語った。
「昔は、若い人は『恋と革命に生きよ』というぐらい体制にチャレンジし、新しい社会を作っていくのがあたりまえでした。何故かというと“今日より明日はよくなる”と、みんなが思えた時代だったからです。僕ら世代がその境目ですけど、本当の好景気を一度も知らないで、就職は氷河期、ずっと右肩下がりできました。娘たちの世代はさらにもっと厳しく、何も分からないままでも敏感に感じ取っているんです、“明日は今日より厳しいかもしれない”と。だから保守化するんですよ。安倍さんにすがろうとする。彼らの世代的心理は、昔とはベクトルが真逆です。それを汲んでやらなきゃいけない。そのうえで吐いた言葉なんです、『お父さんが総理大臣になれば社会は良くなる。私たちの世代も明るくなる』と。我々は……それぐらい彼ら世代にプレッシャーを与え続けてるということです。今は将来世代を食いつぶしながら生きる初めての時代であり、初めての世代なんです。だから、もう、政治がのんきに有権者のみなさんに『道路を作ります、橋かけます』なんて言うのは、昔は確かにそれが幸せだったと思いますけど、過去のものにしないといけません。私たちは今の世代も大事だけれど、将来の世代も大事なんです。では一体、今、何を我慢できるのか? どこは辛抱し、どこを分かち合い、どういう社会に移行できるのか?を考えなければなりません。でも人間、我慢も辛抱もそうそうはできないので、ビジョンが必要なんです。みんながフェアと感じられる公平な社会像と、そこへの移行過程が必要で、なおかつ透明性が高くないといけない。それらを満たすこれからの政治は、おそらく今までの政治、政治家像では出来ないんです。新しい政治、政治家像が必要です。それを生み出せるのは、新たな政治家像をイメージできる有権者なんですよ。そこまでいかないと本当の変革は起きない。それが最大のチャレンジなんです」

………<中略>………
小川さんに、私たち有権者の在り方を尋ねた。
今、有権者に政治を深く考える習慣はなく、政治と生活を切り離して見ていて、誰かと語るなんて恥ずかしいとされる。いざ選挙となれば一過性のブームに乗りやすく、驚くほど忘れっぽい。日本の有権者の多くはとても未熟だ。
有権者を教育することを政治家は当然やっていませんし、学校も親も誰も日本ではやっていないですね。親は政治の話なんてしたら駄目、変な人に思われるよと言い、社会の暗黙の了解として政治を忌避してきました。結果として今の政界は相当に信用されず尊敬されず、なのに機能不全な政治が国民生活に多大なマイナスの影響を及ぼしています。だからこの状況を放置しているのは国民総体だという当事者意識に行きついてもらわないといけないのです。たとえば北欧では政治家は絶対に悪いことはしないと国民は言います。日本は逆ですよね。あいつらは絶対に悪いことをしている、と。では悪いことをしないと見ている政治家を選んでいるのは誰かというと、その国の国民なんですね。あいつらは悪いことをするという政治家を選んでるのは、この国の国民です。もっと言うと、北欧では税金が高いですが、不満が少ない。何故なら自分たちのためにちゃんと使われているのが分かるから。現に失業しても大丈夫でしょう。社会保障はほとんど無料だ。教育もお金がかからない。年金も大丈夫。それで何が起こるかというと、人は貯金をしなくなる。不安がないからです。そうするとお金の巡りもよくなる。経済もよくなる。そういう社会は結局、信頼が信頼を呼ぶ連鎖をしている。しかし、この国ではあいつらは絶対に悪い奴らだと自分たちが選んだ人に言って、社会は穴だらけで不安が横たわっている。そうすると少々でも余ったお金があれば貯金する。お金の巡りは悪い。経済も社会保障もすべて傷んだ社会は不信が連鎖することになる。これは相当に大きいな違いですよね。僕がよく紹介する本に、スウェーデンの中学の教科書を翻訳した『あなた自身の社会』(新評論社)があります。その本では、あなたたちは社会の当事者で、自分たちの手で社会を変革し、築くことができると教えています。さらに家庭では、幼い頃から支持政党持ちなさい、その理由を人に説明できるようにしなさいと教育するっていうんですね。その結果として投票率90%を超えてるんですよ。いかに社会の当事者であるかを有権者に伝えていくか、有権者として人を育てるかというところまでさかのぼらないと、根本解決にはならないと思います」。



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