ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

小泉悠さん 日ロ外交を語る

 小泉悠さん。「軍事オタク」というのは自称(卑下、謙遜?)なのかどうか。ロシアの軍事・安全保障政策が専門で、去年から東京大学の特任助教。著書の『「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略』(東京堂出版)がサントリー学芸賞に選ばれて注目された(まだ読んでないが……)。
 その小泉さんの研究室を佐藤達弥・朝日新聞政治部記者が訪ね、インタヴューした記事を読んだ。訪問した期日は不明。先日の憲法改正、連邦法改正の流れを考えると、日ロ外交の歯車がひとつ進んでいて、インタヴューのタイミングがこの前か後かはやや気にかかるが、いずれにしても基本姿勢に大きな変化はないだろうと思われる。
 いくら専門家に意見を聞くといっても、聞かれた方も、こういう情勢下に「目から鱗が落ちる」ような卓抜なアイディアはなかなか出てこないと思う。やはり、地道に交流しながら着地点を見つけていくしかないのだろう。小生のロシア語も、何かそういうのにつながっていくとよいのだが……(ため息がひとつ出る)。
 7月26日付朝日新聞デジタルの記事の要約を以下に掲載する。

東大の軍事オタク、イズムィコと考えた 北方領土の行方:朝日新聞デジタル

北方領土返還の見込みについて
 短期的には解決する見込みは非常に薄い。ロシア側には、返すメリットが見当たらない。現状、4島を実効支配しているので急いで返す必要性がない。しかも、返還交渉と引き換えに様々なことを日本に要求できる。これまでロシア側は、日本が配備を計画していた「イージス・アショア」や日米同盟が返還の障害になっていると牽制してきた。ロシアにとって領土問題は便利な交渉材料であり、解決しない方が好都合。
 また、領土交渉を続けて日本をロシア側に引き寄せておくことは、西側諸国の結束を弱めさせることにもつながるので、この意味でも、北方領土問題は便利。ロシアはすぐに「解決」したくないと思う。
〇四島の軍事的な重要性
 ヨーロッパ側に配置されているロシア軍の部隊に比べ、北方領土駐留部隊の近代化ははるかに遅れていて、この面からもロシアが相対的に四島を重要視していないととらえるかも知れないが、四島周辺の海域(オホーツク海域)は、核ミサイルを積んだロシア原子力潜水艦の隠れ家になっていて、米国への抑止力を保つ上では重要な場所となっている。国後、択捉両島には、この海域を守る約3500人の部隊が駐留しており、島を失うと、駐留部隊の足場を失うことになるし、代わりに自衛隊や米軍が乗り込んでくれば、脅威になりかねない。
 他方、色丹島歯舞群島にはロシア軍は配備されていない。両島に日米が大部隊を展開するのは難しいが、他国の電波や潜水艦の水中航行音をキャッチする小規模な施設などは設置可能なので、ロシア側が確保しておくに越したことはない。
〇日ロ外交の将来
 今のロシアの対日強硬姿勢は「西側」諸国との対立にリンクしている。将来、穏健な政権がロシアに誕生し、「西側」との対立状況を改善できれば、日本と建設的な対話をする余地が生まれてくるかもしれない。しかし、今の日ロ外交では、領土の話ばかりが注目されるので、ロシア側もうんざりしている。日ロが東アジアで一緒にやっていく経済協力、文化交流の実績を地道に積み重ねていくしかない。
 現在進められている日ロ間の協力枠踏みとして、エネルギー開発などで日本企業の投資を促す「8項目の経済協力プラン」、北方四島での共同経済活動などがある。これらに加えて、観光や文化交流など多様なアイディアにも目を向けるべきだ。小泉さんは「新型コロナウイルスが流行する前は、極東のウラジオストクへの観光が人気だった。『日本から2時間半で飛んで行けるヨーロッパ』として、女性ファッション誌で特集が組まれたこともあった。政府のおじさんたちが一生懸命考えて作った協力プランもいいんですけど、地場の若い人たちから生まれる、思いも寄らないような日ロ交流のアイデアを社会全体で応援したらいいんじゃないか」という。



社会・経済ランキング
にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ
にほんブログ村