ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

繰り返される失敗 1

 今は昔、神戸大学感染症内科教授の岩田健太郎さんが、多数の新型コロナ感染者を出していたクルーズ船・ダイヤモンド・プリンセス号に乗り込み、内情を「告発」したのが今年の2月のこと。これが日本のコロナ対策の"出発点"だった。それからすでに5カ月が経過したが、このとき、岩田さんが指摘した諸事、たとえば、クルーズ船の内部は「危険ゾーンと安全ゾーンの区別がついていない」とか、「感染対策の専門家の指導の下、組織だって動いていない」とか、「情報公開をしっかりやらないと国際的な信用は得られない」とか、……これらは、現在の日本のコロナ対策についても見事なほどに重なるから驚きである。

1)「危険ゾーンと安全ゾーンの区別」:これは検査をして感染者を特定し、隔離を徹底しないと始まらない。しかし、初動の水際対策に失敗した上に、検査数を極度に抑え続けた結果、感染が市中に拡がり、今や「区別」を可視化することは不可能となっている。感染者数が現在急増しているのも、人々が市中で知らない間に誰かから感染し、誰かを感染させていることを意味する。
2)「専門家の指導の下の組織的な対応」:これは政府の新型コロナ対策分科会の会長の「旅行自体が感染を起こす事はないですから。もしその事が起きていれば、もう日本中は感染者だらけですよ」という発言を例に挙げるだけで十分だろう。専門家が政府のGo To トラベルに釘のひとつもさせないで、コロナの拡大を抑えられるはずもない。
3)「情報公開と国際的な信用」:情報公開どころか、情報や統計の隠ぺいと捏造を常態化してきた首相とその政権が、コロナについてだけ情報公開に前向きになるということはあり得ない。8年にわたる負の遺産清算するのは次の政権の任務になるが、これは容易なことではない。

 岩田さんは末尾で次のように述べている。「やはりこれ、日本の失敗な訳ですけど、それを隠すともっと失敗なわけです。確かに「マズイ対応であるということがバレる」っていうのはそれは恥ずかしいことかもしれないですけど、これを隠蔽するともっと恥ずかしいわけです。」
 ところが、クルーズ船でのこの"恥ずかしい"失敗、過去のことには全然なっていないのである。

 岩田さんの告発動画は本人によりすぐに削除されることになったが(まあ、誰かに「いい子だから、分かるよね」とか何とか"諭された"のだろうが……)、書き起こされたものは残っているので、途中省略を入れながら引用し、当時を思い起こしてみる。(※太字は当方が施したもの)

ダイヤモンド・プリンセス号の感染対策は「むちゃくちゃ」。船内に入った岩田健太郎さんが告発(全文書き起こし) | ハフポスト

……それはもうひどいものでした。もうこの仕事を20年以上やってですね、アフリカのエボラ(出血熱)とか中国のSARS重症急性呼吸器症候群)とかいろんな感染症と立ち向かってきました。もちろん身の危険を感じることは多々あったわけですけど、自分が感染症にかかる恐怖は、そんなに感じたことはないです。
どうしてかというと、僕はプロなので自分がエボラにかからない、自分がSARSにかからない方法は知ってるわけです。あるいは他の人をエボラにしない、他の人をSARSにしない方法とか、その施設の中でどういうふうにすれば感染がさらに広がらないかという事も熟知しているからです。
それが分かっているから、ど真ん中にいても怖くない。アフリカに居ても中国に居ても怖くなかったわけですが、ダイヤモンド・プリンセスの中はものすごい悲惨な状態で、心の底から怖いと思いました。これはもうCOVID-19に感染してもしょうがないんじゃないかと本気で思いました。
レッドゾーンとグリーンゾーンというんですけど、ウイルスが全くない安全なゾーンとウイルスがいるかもしれない危ないゾーンというのをきちっと分けて「レッドゾーンでは完全にPPEという防護服をつける」「グリーンゾーンでは何もしなくていい」と、こういうふうにきちっと区別することによってウイルスから身を守るというのは我々の世界の鉄則なんです。
ところが、ダイヤモンド・プリンセスの中はグリーンもレッドもグチャグチャになっていて、どこが危なくてどこが危なくないのか全く区別がつかない
ウイルスって目に見えないですから、完全なそういう「区分け」をすることで初めて自分の身を守るんですけど、もうどこの手すりと、どこのじゅうたん、どこにウイルスがいるのかさっぱり分からない状態で、…………。<略>
私が聞いた限りではDMATの職員、厚労省の方、検疫官の方がPCR(法の検査で)陽性になったという話は聞いてたんですけど、それはもう「むべなるかな」と思いました。
中の方に聞いたら「いやー、我々もこれ自分たち感染するなと思ってますよ」という風に言われて、びっくりしたわけです。どうしてかというと我々がこういう感染症のミッションに出るときは必ず自分たち、医療従事者の身を守るっていうのが大前提で、自分たちの感染のリスクをほったらかしにして患者さんとかですね、一般の方々に立ち向かうってのは御法度。これはもうルール違反なわけです。…………<略>
検疫所の方と一緒に歩いていて、ヒュッと患者さんとすれ違ったりするわけです。
「あ! 今、患者さんとすれ違っちゃう!」
と、笑顔で検疫所の職員が言っているわけですよね。
我々的には超非常識なこと、平気でみなさんやっていて、みんなそれについて何も思っていないと。聞いたら、そもそも常駐してるプロの感染対策の専門家が一人もいない。時々いらっしゃる方はいるんですけど、彼らも結局「ヤバいな」と思ってるんだけど、何も進言できないし、進言しても聞いてもらえない。やっているのは厚労省の官僚たちで、私も厚労省のトップの人に相談しました。話しましたけど、ものすごくイヤな顔されて聞く耳持つ気ないと。…………
それからこのままだと、もっと何百人という感染者が起きてDMATの方も、…………<略>「彼らが実は恐ろしいリスクの状態にいる」わけです。「自分たちが感染する」という。それを防ぐこともできるわけです、方法はちゃんとありますから。ところがその方法が知らされずに自分たちをリスク下においていると。そしてそのチャンスを奪い取ってしまうという状態です。
彼らは医療従事者ですから、帰ると自分達の病院で仕事するわけで、今度はそこからまた院内感染が広がってしまいかねない。もう…これは大変なことでアフリカや中国なんかに比べても全然ひどい感染対策をしている。シエラレオネなんかの方がよっぽどマシでした。
日本にCDC(疾病予防管理センター)がないとは言え、まさかここまでひどいとは思ってなくて、もうちょっとちゃんと「専門家が入って専門家が責任を取って、リーダーシップを取って、ちゃんと感染対策についてのルールを決めて、やってるんだろう」と思ったんですけど、まったくそんなことはないわけです。もうとんでもないことなわけです。
……とにかく多くの方にこのダイヤモンド・プリンセスで起きている事っていうのをちゃんと知っていただきたいと思います。
できるならば学術界とかですね、あるいは国際的な団体ですね、日本に変わるように促していただきたいと思います。
考えてみると、2003年のSARSの時に僕も北京に居てすごい大変だったんですけど、特に大変だったのはやっぱり「中国が情報公開を十分してくれなかった」っていうのがすごく辛くて、何が起きてるのかよく分からない。北京に居て本当に怖かったです。
でもそのときですら、もうちょっときちっと情報は入ってきたし、少なくとも対策の仕方は明確で、自分自身が感染するリスク……。まあSARSの死亡率は10%で怖かったですけれども、しかしながら今回のCOVID-19、少なくともダイヤモンド・プリンセスの中のカオスの状態よりはるかに楽でした。
で、思い出していただきたいのはそのCOVID-19、中国で武漢で流行り出した時に、警鐘を鳴らしたドクターがソーシャルネットワークを使って「これはヤバイ」ということを勇気を持って言ったわけです。
昔の中国だったら、ああいうメッセージが外に出るのは絶対許さなかったはずですけど、中国は今BBCのニュースなんかを聞くとやっぱりオープンネス(開放性)とトランスペアレンシー(透明性)を大事にしているという風にアピールしてます。
それがどこまで正しいのかどうか僕は知りませんけど、少なくとも透明性があること、情報公開をちゃんとやることが国際的な信用を勝ち得る上で大事なんだってことは理解しているらしい。中国は世界の大国になろうとしてますから、そこをしっかりやろうとしている。
ところが日本は、ダイヤモンド・プリンセスの中で起きていることは全然情報を出していない。
それから、院内感染が起きているかどうかは、発熱のオンセット(発症日時)をちゃんと記録して、それから(流行の詳細を知る)カーブを作っていくという統計手法「エピカーブ」ってのがあるんですけど、そのデータは全然取ってないということを今日、教えてもらいました。
PCRの検査をした日をカウントしても感染の状態は分からないわけです。このことも実は厚労省の方にすでに申し上げてたんですけど、何日も前に。全然されていないと、いうことで、要は院内の感染がどんどん起きててもそれに全く気付かなければ……。気付いてもいないわけで、対応すらできてない、専門家もいない。むちゃくちゃな状態になったままでいるわけです。
このことを日本の皆さん、あるいは世界の皆さんが知らぬままになっていて、特に外国の皆さんなんかはそうやって、かえって悪いマネジメントでずっとクルーズ(船)の中で感染のリスクに耐えなきゃいけなかったということですね。
やはりこれ、日本の失敗な訳ですけど、それを隠すともっと失敗なわけです。確かに「マズイ対応であるということがバレる」っていうのはそれは恥ずかしいことかもしれないですけど、これを隠蔽するともっと恥ずかしいわけです。やはり情報公開は大事なんですね。
誰も情報公開しない以上は、まあここでやるしかないわけです。


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