ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「百合子山」の高さ 都知事選のふりかえり

 日曜夜の投開票から4日。もうずいぶん“前”のことのように感じてしまいます。今さらという気もしますが、少しだけ、選挙結果について考えてみたいと思います。小生は都民ではありませんが、これだけの大差がついた選挙の「傾向」が東京特有のもので、他の道府県とは全く別ものとは思えないからです。

 小池百合子候補の得票数は366万余。得票率59.70%。今回投票しなかった人も含めた都民全有権者(約1,129万人)の32.4%からの支持で再選を決めたことになります。他方、宇都宮健児候補と山本太郎候補の得票数は84万と65万余票で、合計すると158万票余、得票率は二人合わせて25.86%でした(全有権者の14%です)。宇都宮、山本、二人の支持者が「同質」ということはありませんが、ここでは“小池批判票”の中の“固定票+α”と解釈させてください(あとの小野、桜井、立花以下の候補者たちについては、話を単純化するため、検討対象からは外します)。
 この小池候補の得票数366万という数字は、山本候補が言っていたように相当に高い“山”です。今回、投票しなかった有権者は508万人ほどいます。もし、この人たちが全員投票したとしても、一人も小池候補に投票せず、45%の人が宇都宮候補か山本候補に投票しなければ、この366万票という“高峰”は超えられないのです。まあ、投票率100%などというのは、この国ではあり得ないことで、そんな非現実的な話では意味がないので、投票率を70%としましょう。これでもかなりハードルが高いのですが、日曜の選挙の投票率は55%ですから、さらに15%=169万3千人の有権者が投票に行ったと仮定した場合です。足し算をすれば明らかですが、158万余+169万余=328万余となりますから 15%全員が宇都宮・山本候補に票を入れたとしても、小池候補の得票数366万になお38万票足りません。今回の選挙結果について、投票率の低さと宇都宮・山本候補の大敗を結びつけたり混同したりしているようなツィートをいくつか見かけましたが、ここから明らかなように、たとえ投票率が上がったとしても、宇都宮・山本両候補の「大敗」の事実は変わらないのです。この点は、山本候補も敗戦の弁の中で述べていたと思います。

 とすると、投票に行かない人々を投票に行かせる、あるいは、行く気にさせる(山本候補は「発掘」という言葉も使っていましたが)、「投票者の発掘」=投票率を上げる戦略(?)はいかがなものかという話になります。そうではなく、宇都宮・山本候補とその支持者は、「発掘」先を小池候補に投票している人々に向け、彼ら彼女たちを“剥がしてこないと勝てない”のです。現状では、小池支持者と宇都宮・山本連合支持者の勢力比は5:2くらいですから、これを4:3、さらには3:4になるように知恵を絞る必要があります。どうすれば、小池支持者たちを「転向」させることができるのでしょうか。小生は、もし都民だったら、たぶん小池候補には投票しない人間ですが、妙案があるわけではありません。

 この点で、「毛ば部とる子」さんが「200706 都民はなぜ小池百合子を選ぶのか?」でひとつのヒントを与える分析をされています。以下に要約を載せます。

https://www.youtube.com/watch?v=g2c8RI_N8z0&feature=youtu.be

 小池さんはこの4年間の功績が特に評価されているようにも思えない知事ですが、なぜここまで圧勝したのでしょうか。
 NHKが行った「都民1万人アンケート」というのがあります。その中に、「政治への関心度」という項目があり、74%の人が自分は政治に関心がある(とてもある18%、ある程度ある56%)と答えています。でも、今回の投票率は55%。あとの約20%の人はどうしたのでしょうか。投票すべき候補(「受け皿」)が見当たらなかったのか、それとも、小池候補が圧勝するからもう投票をあきらめてしまったのか。
 それから、小池都政の4年間をふりかえって、たとえば、築地移転の問題について、6割の人が「評価しない」と答えています。それ以外の諸事についても「評価しない」というのが半分強くらいいますし、「都民の意見が都政に反映されているか」という質問にも64%の人が「反映されていない」と答え、「4年間の都政で暮らしはよくなったか」いう問いには8割の方が「変わらない」と答えているんですね。でも、選挙では小池さんがいいというんですから、不思議ですよね。
 ひとつ気になったのは、小池さんの「資質」を尋ねる項目に「弱者への共感」というのがあるんですが、これには6割の人が、小池さんには弱者への共感が「ない(持ち合わせていない)」と答えているんですね。で、思ったんですが、都民は相対的に弱者を政治によって引き上げていく(生活状況を改善していく)という考え方に共感する人が少ないのかな、と。意外だったのは、今回の新型コロナで収入が減ったか、という質問には57%の人が「変わらない」と答えているんですね。ある程度減ったという人は30%、激減したという人は10%なんです。これは東京ならではの数字なのでしょうか。地方だったら、激減の%がもう少し上がると思うのですが……。
 今回の選挙で2位・3位の宇都宮さんと山本さんは、どちらかというと弱者を引き上げたいという共通点があった。山本さんはロスジェネという自分と同じ世代にしぼって引き上げていくということを訴えかけていましたし、宇都宮さんも、過去にサラ金の被害者を救った大きな功績がある方です。そういう意味で二人とも似た方向性をもっていたと思うんです。
 ところが、このコロナ禍に東京では収入が特に変わらないという人が6割弱なんです。とすると、「弱者」というのは東京では“少数派”なのかも知れないな、と。これ、地方と東京で、割合的にどうちがうのか、ぜひ知りたいと思うんですが、ともかくも、弱者救済に目を向ける政策はそのこと自体とても大切だと思うんですが、こと選挙で訴えていく中でそれを前面に出すというのは、ひょっとしたら東京ではあまり共感が得られないという残念なバックグランドがあったのではないかなと思います。
<以下略>

 小生としては、毛ば部さんの分析に異議があるわけではありません。もしそういう「残念なバックグランド」が認められるなら、また、東京以外でもそういうバックグランドがあるとしたら、それは現実として受け止めなければならないと思います。ただ、「弱者」は経済的な弱者に限られるわけではないので、もう少し広くとらえることも可能かなとは思います。それに、弱者救済のし方に共感は得られなくとも、弱者への共感自体がなくなるとは思っていないので、立候補者が敢えてこうした「看板」を下ろすようなことには、賛同はしません。まあ、当選すると「看板」を下す輩が多いんですけど…。
 いや、じゃあ、どうすればいいのかというと、それがね……。まあ、本当に難しいです。


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