ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

安倍マネーと「交付罪」2

 広島の首長や議員の口から次々と異様なバラマキの実態が明かされ、「買収ドミノ」「告白ドミノ」などと呼ばれている。当事者同士では“秘密にしておこう”といっても、これだけの大人数にカネをばらまいて、“秘密”にできるはずもない。それを無理強いして“秘密”にしておくための決めぜりふが「安倍さんからです」だったのだ。

 水島朝穂さんが6月29日付HP「平和憲法のメッセージ」の中でこの件についてコメントしている。一部引用する。

平和憲法のメッセージ

 ……すべてはここから始まった。『週刊文春』2019年6月27日号の記事をクリックしてお読みいただきたい。タイトルは、「「首相の責任」「もう過去の人」 安倍首相はかつてこき下ろされた“あの男”を許さない」である。「仇敵を抹殺するべく、広島での“仁義なき戦い”に力を入れている」。私の人生のなかで、ここまで異様な現金バラマキの選挙をみたことがない。70年代に「金権政治」が問題になったが、議員自らが地方政治家たちに強引に金をまいて歩く。まさかトップの私怨でこんなことが起きるのか。にわかには信じられなかった。
「仇敵」となった溝手顕正は、広島県三原市生まれ。1987年11月から三原市長をやっている。1993年に参院議員になってから連続当選。国家公安委員長・防災担当大臣などを務め、自民党参院幹事長、参院議員会長を務めた重鎮である。広島選挙区は改選定数2人。溝手は自民1議席をずっと守ってきた。2007年選挙では民主党の候補が57万票をとって圧勝。38万票で2位に甘んじたが、2013年選挙では52万票を獲得してトップ当選だった。2019年、野党系の候補者は33万票近くと、2013年選挙で民主と生活の双方に割れた票を合わせた数を獲得して当選した。2位は29万票の河井案里。溝手は27万票で落選した。2人の得票を合わせると、2013年の溝手票を4、5万上回った程度だった。どう見ても、自民2議席独占を狙ったたたかい方ではなかった。2議席を得るには、2013年の溝手票に20万票近く上乗せしなければならなかったからである。
党内の仇敵つぶしに参院選を利用
 冒頭左の写真は2人が逮捕された当日の『中国新聞』号外である。わがゼミ出身の記者が速達で送ってくれた。広島県内の首長や議員たち、少なくとも94人に対して2570万円という大金がばらまかれた。この写真は、『朝日新聞』6月28日付のスクープである。東京地検特捜部が重点的に調べている94人について、朝日が独自取材により、金の配布状況を検証した。縦見出しにあるように、「溝手さんの票を取らないと」という形で、自民党溝手後援会に主要打撃の対象を絞っていたことがよくわかる。地図上の分布を見れば、野党陣営の票や浮動票ではなく、まさに溝手後援会の切り崩しとしか思えないような金のまき方である。最も明確なのは、天満祥典・三原市長への150万円。有権者を買収するのではなく、三原市長をやった溝手顕正の地元後援会トップを買収することで、溝手陣営の本陣に切り込んだわけである。150万円の効果は、天満市長が溝手、河井の両候補の支援を表明したことに端的にあらわれている。
 案里容疑者の後援会長を務めた広島県府中町議は中国新聞の取材に対し、克行容疑者が選挙事務所で1対1の状況で30万円を渡してきた際、「『安倍さんから』と言われた」と証言した(『中国新聞』デジタル6月26日)。これは重要である。「首相の名前を出されたため断りきれず受けとった」と。安倍首相の地元秘書たちが、山口ナンバーの街宣車を投入して、案里の選挙運動を展開した。特に地元企業には、「総理秘書」の名刺をもってアポなしで押しかけ、案里の支持を訴えた。どこの企業でも社長クラスが対応したという。「総理秘書」が一緒に来たというのでは、インパクトがまったく違う。
 さらに、河井克行は選挙前、首相官邸で12回も面会し、そのうち9回は個別面会であった。この頻度は異様である。重要なのは、面会のすぐあとに3000万円単位で金が振り込まれていることである。昨年の参院選では、自民党候補者に1500万円が党本部から資金提供されたが、河井案里にだけは1億5000万円という10倍もの資金提供が行われた。それはこういう形で分割して送金されていたのである。どう見ても、単独の面会のあとに3000万提供が続くので、これは活動状況を報告するなかで、首相が「もっとやれ」と追加していったものとみられる。最初から1億5000万をポーンと出したわけではなかったのである。私もこの表を見るまで誤解していた。この経緯を全体として見れば、河井克行・案里の金ばらまき活動の原資が、党本部からの多額の資金提供にあることは明らかではないか。
公職選挙法上の交付罪に問えるか
 公職選挙法221条1項は買収及び利害誘導罪で、1項1号は買収罪である。今回、3000万円(5月20日)、3000万円(6月10日)、4500万円(6月10日)、3000万円(6月27日)という形で、溝手陣営切り崩しの状況報告を直接受けつつ、「実弾」を投入していたのが党本部の何者であるかが立証できれば、公職選挙法221条1項5号の「交付罪」(供与させる目的をもった金銭の交付)に問えるとする見方もある(郷原信郎・元東京地検特捜部検事)。「1億5000万円が河井夫妻の現金供与の原資となっている事実が認められれば、資金提供を決定した人物とその実質的理由を解明することは不可欠であり、過去に前例がない自民党本部への捜索が行われる可能性も十分にある」と。日本の検察がそこまで切り込むかどうかは予断を許さない。

 それにしても、アベ政治の7年間は“復古”の時代だったと思わざるを得ない。第二次政権発足時、安倍総理、麻生副総理……昔のメンツの復活に、まるでこれは“ゾンビ”かと思ったが、教育勅語の復活・再評価、教育基本法改定といった復古のトーンは、政治とカネの問題にも及んでいた。1970年代(あるいは1980年代のはじめくらいまで)、小生の住む千葉県のいなかでも“実弾”が飛び交っていたのを子どもながらに目撃した記憶がある。これは本当によくない。だから不十分ながら法律が整備された。おまけに政治家の活動費に税金が充当されることまで盛り込まれ(献金と税金の二重取りとの批判もあったにせよ)、透明性をもって政治活動をすることが義務付けられたのである。しかして、その実態は……。

 澤藤統一郎さんが6月28日付ブログで元衆議院議員豊田真由子氏(埼玉)の発言を引用している。

澤藤統一郎の憲法日記 » 2020 » 6月

 インターネットテレビ局ABEMAに、『ABEMA Prime』という報道番組がある。そこに、かの勇名を馳せた元衆議院議員豊田真由子が出演して、埼玉4区(朝霞市志木市和光市新座市)でも、事情は大同小異であったと語っている。一昨日(6月26日)のことだ。
 埼玉4区は、関東都市圏の一角、けっして保守的風土が強い土地柄というわけではない。ここでの選挙事情は、日本中似たようなものであるのかも知れない。
豊田真由子は、「とある先輩議員から、『ちゃんと地元でお金を配ってるの? 市長さん、県議さん、市議さんにお金を配らなくて、選挙で応援してもらえるわけがないじゃないの』と叱られ、びっくりしたことがある。選挙の時に限らず、この世界は桁が違うお金が動いているんだと、5年の間に感じた」と告白したという。さらにこう言っている。
「私はお金も無かったので、(自民)党からの1000万円と親族からの借金などでやったが、収支報告書を見た他の議員さんに『本当にこれでやってんの? どうやって勝ったの? 市議会議員選挙並みだね』と笑われるくらいだった。ど根性で地べたを這いつくばることで、だんだんとお助けをいただけるようになっていったが、必ずしもそうではない地域があるし、『お金をくれないんだったらあなたを応援しないよ』という方もいる。やっぱりそういう風習のようなものが日本の政治にはあるし、国会議員の選挙というのは、地元の市長さんや県議さん、市議さんに応援してもらわないと、非常に戦いにくい、厳しいということだ。議員さんに世襲の方や大きな企業グループのご子息が多いのも、そうではないとやっていけない世界だからだ」。
 わが国の政治風土と、有権者民度を語る貴重な証言である。そのような、票と議席の集積の頂点に、腐ったアタマが乗っかっている。切られた尻尾のうごめきに幻惑されることなく、この際本体のアタマを押さえなければならない。

 もはや“腐ったアタマ”がこの買収選挙の“本丸”であるのは明らかである。責任をとらせなければなならない。





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