ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

カミュ『ペスト』を読んで 2

 アルベール・カミュ『ペスト』を読み終えた。小説としては『異邦人』(1942年)に続く二作目で、1947年6月に発表されたもの。戦後から2年。小説の舞台にはまだ“戦争”の痕跡を感じないではない。疫病の「ペスト」に含意されているものが「戦争」であったと考えるのはもちろん短絡的だが、まったくの的外れとも言えない。読んでいていろいろとハッとさせられることが多かったが、ひとつだけ引用する………。

 ………天災のさなかで教えられること、すなわち人間のなかには軽蔑すべきものよりも賛美すべきもののほうが多くあるということ………。(宮崎嶺雄訳 新潮文庫 457頁)

 これは度重なる多くの自然災害を経験してきた人には身に染みていることかも知れない。震災の後の被災者同士の助け合い、整然と列に並び順番を待つ姿………。社会学者の西澤晃彦さんは次のように言う「私はきれいごとを言いたいのではない。自らの「弱さ」の承認から「弱さ」をもつ他者への認識と「弱さ」を庇う行為に至る回路については事実の裏付けがある。そうした回路は、すでに私たちには持たれているものである。ただ、これは経験的にそう言えるという類のことであって、なぜそうなるのかを説明することが難しいのだが。」(西澤『貧困と社会』、放送大学教材、200頁)

 もちろん震災後に“火事場泥棒”のごとき下賤な行為があったのも事実だが、多数は、カミュが書いているとおり、「賛美すべき」こと(人々)なのである。そして今ペストならぬコロナの被害にさらされて、日々自活する力を削がれている大勢の人々のなかにも「賛美すべきものの方が多くある」と思う(願う)。こうした“善意”や“良識”の上に胡坐をかいて「おたくの国と民度のレベルがちがう」などと宣う為政者の気が知れない。




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