「緊急事態宣言」の解除期日とされた5月6日まであと一週間。休校している学校は再開されるのだろうか。日本全国ではかなりの「温度差」がありそうだが、千葉県に生活している者の実感としては、都市部や県西部の「東京圏」はもちろん、うちのような田舎でも、再開するのはまだ難しいのではないかという印象だ。そうは言っても、3月からすでに2カ月。間に卒業、入学などの年度の節目が入り、「人間」が入れ替わっていることが問題を複雑にしている気もする。
新入生について言えば、変則的ながら入学式を迎えられたかもしれないが、その後は家庭学習が基本で、新しい人間関係がつくれないまま今に至っている。在校生にしても、通常の学校生活はもちろん、部活動なども全面停止されている。今年の高校総体や中学生の全国大会も中止が決まった。選手たちや家族もさぞ無念だろう。小6、中高3年生にとっては、「学校生活最後の〇〇」と言われるものが続々と消えていく状況は本当に気の毒だ。いっそ9月入学にして、すべてリセットすべきという声も上がっているが、学校をリセットするだけでは済まないところが難しい…。
東京新聞の「子育て」「育児」に関するウェブサイトに「東京すくすく」というのがある。子育て中の親を意識したつくりで参考になることが多い。私的には、ユネスコの「ESD(Education for Sustainable Development=持続可能な開発のための教育)」を実践してきた、横浜市の小学校校長へのインタビューが興味深かった。一部引用させてもらおうと思う。
学習は取り返せるが、取り返せないものもある コロナ休校で考えたい「子どものために学校は何ができるか」 住田昌治校長の思い | 子育て世代がつながる | 東京すくすく ― 東京新聞
―子どもたちはどのように過ごしているのでしょうか。
3月半ばに担任の先生たちが家庭訪問をした際は、言われた通りに家にいた子も多かったようです。「先生が来て、久しぶりに家族以外と話した」と話す子もいたとか。これだけ「出ちゃいけない」「家にいろ」と言われたら、子どもたちはストレスがたまります。体力も低下する。子どもの場合は、人と関わりながら、遊びながら心身を鍛えている部分がすごくありますから。
今は学校や公園で遊んでいる子もいます。校庭は学年ごとに時間を区切って開放しています。1年生から4年生と特別支援学級の児童で、保護者が就労で不在の家庭などを対象に、学校での緊急受け入れもしています。休校が長くなったので、追加の課題などは緊急受け入れや校庭開放、家庭訪問などで渡す予定です。
子ども同士が遊ぶかどうかは家庭の判断だと思います。「他の子と遊ばせたくないのに誘いに来るので困っている」というような電話が学校に来ることがありますが、学校が介入すると「学校に言われたから遊べない」ということになりかねない。家庭の判断で「遊べません」と言ってもらうしかありません。
―親子が自宅で過ごす時間が長くなり、虐待が増えることも心配されています。
今、警察や児童相談所、区役所、民生児童委員などと情報共有し、連携して子どもの命と安全を守るためのネットワークを強化するよう動いています。警察や児童相談所で話を聞くと、地域からの通報が増えているそうです。学校には休校になっても教職員の誰かがいることを伝え、心配な事案があったら学校にも連絡してもらうようにお願いしました。ちゃんと食べているだろうか? しっかり眠れているだろうか? 安心して過ごせているだろうか? 顔を合わせることができなくなって、一番心配なことは学習ではありません。子どもの命と健康です。親の仕事がなくなったり、減ったりして経済状況など生活が激変している家庭もあるかもしれません。学習はいつか取り返せますが、命や健康は取り返すことはできません。
―休校明けの授業はぎゅうぎゅう詰めになるのでしょうか。
学校の先生たちが休校中の今、まさに考えるべきなのが、そうならない対策です。多くの学校は年間35週の標準時数よりも、多めに授業時間数を確保しているので、4月から1カ月の休校なら対応できます。教科同士を関連づけて「この単元はこの教科でやれるから、こっちでは少なくしよう」というような学習計画を作れれば、時間も縮減できます。ただ、4月から新しい学習指導要領が完全実施になり、教科書が新しくなりました。教員自身も初めて見る教科書なので、関連づけのバランスを計るのが難しい部分はあります。
でも、チャンスでもあるんですよ。学校行事にしても、今までやってきたことが本当に必要かどうかを見直すとか、簡素化していくとか。教員たちの間では「今年の卒業式は良かった」という声が上がっています。「練習しなくたって、きちんと証書を受け取れた。もっと子どもを信じればいいよね」「子どもたちはいろんな人が出てきてあいさつされてもありがたくないよね」「来賓一人一人を紹介するのもやめた方がいいと思っていた」なんていう話も聞かれます。いつもと同じようにできない、となった時に、どういうふうにやるのが一番いいのか、なんのためにやるのかを考えて、整理していく必要があります。
―もし、休校が延びた場合、どうなりますか。
休校期間が例えば(4月からの)2カ月になると、夏休みも授業をして、行事をやめて授業にあてないと、本年度中に学習指導要領に定めた範囲が終わらない。学校再開・休校判断を自治体に任せてしまったために、すでに全国の自治体で進度がばらばらになっています。オンラインで授業ができていたとしても、オンラインとオフラインの授業では、進度も定着度も違ってくるのではないでしょうか。
結果的に子どもにしわ寄せが行くことになります。長い期間、学校に来られない状態を強いられて、さらに休校が延びたことで「ぎゅうぎゅう詰めで授業やります」「運動会、修学旅行はやりません」「夏休みはなくなります」というのは、本当に子どもたちにとっていいことなのか、という根本的なことを考えなければ。校長の判断で「この教科は今年はこのくらいでやめましょう」「新しく入った英語は来年からにしましょう」とやっていいんだったら、やりますけど、そうすると翌年度に積み残しが出る。ものすごく難しい判断です。
高校、大学受験を控えた学年の子どもたちは本当に大変です。今、授業ができなくても受験は来年ある。休校によって広がった学力差をどう埋めるのか。誰も答えを持っていません。かといって、入試を1年延ばします、とはならないでしょう。補習、補習で追い込まれていく子どもたちのことを考えると、本当に悩ましいです。