ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

藤原辰史さんの寄稿(B面の岩波新書より)

 岩波書店の「岩波新書編集部 B面の岩波新書」に藤原辰史さん(京都大学人文科学研究所)の特別寄稿文「パンデミックを生きる指針 歴史研究のアプローチ」があることを知り、読んでみた。 www.iwanamishinsho80.com

 藤原さんは大変ユニークな研究をされている方で、専門は「農業思想史・農業技術史」と書かれているが、本人を前にそういう紹介をしたら、おそらくはにかむような笑顔を浮かべて、肯定も否定もせず、「う~ん、今は〇〇〇のようなことをやってますが…」とおっしゃるのではないかと想像する。以前、ご著書のひとつ『ナチスのキッチン』の出版記念の対談(?)をネットで拝見したとき、笑顔が素敵で、研究熱心な人柄が感じられたのを思い出す。

 まず冒頭。「人間という頭でっかちな動物は、目の前の輪郭のはっきりした危機よりも、遠くの輪郭のぼんやりとした希望にすがりたくなる癖がある。…自分もそういう傾向をもつ人間のひとりだ」。「…希望はいつしか根拠のない確信と成り果てる。第一次世界大戦は…クリスマスまでには終わるとドイツ皇帝ヴィルヘルム二世は約束した。第二次世界大戦は日本の勝利に終わると大本営は国民に繰り返し語っていた。このような為政者の楽観と空威張りを、マスコミが垂れ流し、政府に反対してきた人たちでさえ、かなりの割合で信じていたことは、歴史の冷徹な事実である。」と。この間自分も冷静だったと思いたいのだが、実は外部情報に無関心を装って、ただ安心したいだけだったのではないかと反省させられる。

 最も印象深かったのは、類比すべきは百年前の「スペイン風邪」のパンデミックで、もし今の新型コロナが当時のインフルエンザと同じであれば、これはとても1回では終息しそうになく(舞い戻りがあり)、第二派、第三派がありうるということ。「スペイン風邪」のときには、第一派は4か月で世界を一周した。第二派は第一派のときよりも致死率が高かった。つまり、この間にウィルスが突然変異をして、弱毒性のウィルスが淘汰されたという。「スペイン風邪」の終息は1920年末まで3年を要したとされている。……結局、巷で言われている通り、症状の有無にかかわらず全体の6、7割が感染して「集団抗体」がつくられないと終息しないのだろう。とすれば、それを前提に今後の経済社会のあり方を考えていかなければならないことになる。オリンピックを来年やる話など、あだ花もいいところだ。

 最後に、藤原さんは、クリオ(歴史の女神)はどういう審判を下すか、日本はパンデミック後も生き残るに値する国家なのかどうか、について述べる。「国家の生き残り」云々のような物言いはあまり好きではないが、日本国がこのままの状況でクリオからどのような審判を受けるかは明らかである。せめて自分としては、「皆が石を投げる人間に一緒になって石を投げる卑しさ」を自覚し、「『しっぽ』の切り捨てと責任の押し付けでウィルスを『制圧』した」と言い張る「奢り」には同調しないように、と思う。