ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

続「日銀は政府の子会社」発言

 コロナ対策に各国でとられた緊急の財政出動はインフレ=お金の過剰流通を招いています。実際、ロシアのウクライナ侵攻の影響で世界的に物不足に陥っている面もありますが、米国の4月の物価上昇率は8%を超えているようです。金融政策としてこれを抑制する方策が金利の引き上げ(利上げ)で、米国の中央銀行FRBなどはすでに利上げに転じ、物価の調整に動いています。ここまでは教科書どおりの展開ですが、日本の中央銀行だけは、なぜか頑なに利上げをしません。その結果が今の急激な円安(円独歩安)で、これは「悪い円安」の言葉どおり、輸入品が割高となり、日本の物価を押し上げる圧力になっています。このままではますます日本の物価は上昇します。どうして日銀は利上げをしないのでしょうか――昨夜(5月12日付)の「一月万冊」でジャーナリストの佐藤章さんがこれを解説していました。まさにこれはアベノミクス不都合な真実です。以下、文字起こししたものの概要を引用させてください。

安倍晋三の暴言「日銀は政府の子会社」の先にある防衛費2倍。いつか来た戦争への道。物価上昇で庶民が苦しみ、政治家と大企業だけが得をする世界。元朝日新聞・記者佐藤章さんと一月万冊 - YouTube

 2013年3月に黒田さんが日銀の総裁に就きますが、以後、日銀が保有する国債残高の伸びが急激です。それまでは日銀は国債を「引き受ける」ことを遠慮していました。なぜかというと、財政法5条で国の借金に中央銀行ファイナンス(資金調達)を与えてはいけないことになっていて、これは中央銀行マンの鉄則です。ところがアベノミクスで安倍-黒田体制になってからは、こういうのをかなぐり捨てて国債をどーんと買い始めたわけです。今や500兆円を超えています。
 日銀は政府の国債を直接引き受けてはいけないことになっているのに、どうしてこういうことになっているのか。このへんは実に悪知恵を働かせているというか、一旦、民間銀行に国債を引き受けさせるわけです。で、引き受けさせたらすぐに日銀がその国債を買うわけです。その間がすごく短いので、ほとんど日銀が引き受けているのと変わらないんです。でも、形式上は民間銀行が引き受けているので、財政法5条違反にはならないというんですが、でも、実態としては日銀がファイナンスしているんですね。これがアベノミクスの正体なんです。これ、いったいどうするのか、ということですね。

 これを解説した記事があるんです。元日銀理事の山本謙三さんという方が、毎日新聞で「ETF国債を大量購入した日銀が「債務超過」に陥る日」というのを書いています。
ETFや国債を大量購入した日銀が「債務超過」に陥る日 | 元日銀理事が語る「経済の急所」 | 山本謙三 | 毎日新聞「経済プレミア」

……国債なんですが、物価が上がってくれば日銀は当然金利を上げなければならない。そうすると、国債の利回りが上がってきますが、国債の価格は下がってしまう。逆の関係にありますから。そうすると日銀がもっている国債にもどんどん損が出ることになる。国債は預金ではないので元本が保証されるものではありません。いくらでも損は出るんですね。
 これに対して、日銀は場合によっては自らお金を印刷できるんで、資金繰りに困らないんだから、債務超過になっても問題ないじゃないか、という議論もあるんですが、根本的に言って問題はそういうことではないんです。日銀は資金繰りに困って倒産することはありませんが、日銀というのは信用に支えられているんです。「通貨高権」という言葉がありますが、しっかりした政府があり、しっかりした中央銀行があって、はじめてそこに信用が生まれるんです。お金もその全面的な信用があって流通するわけです。海外から見ても、日本円って信用できるねということで日本円を買う。ところが中央銀行債務超過になって、ここはやばいぞという状態になると、日本円の信頼が揺らぐわけです。日銀がしっかりしなければいけないというのはそういうことなんです。

 黒田・日銀総裁は2月の毎日新聞のインタビューで「日本の場合、消費者物価が大きく上昇する可能性は極めて低い」と言っています。
緩和縮小「あり得ぬ」 日銀・黒田総裁インタビュー | 毎日新聞

 予防線を張っても、円安が進むことは間違いありません。金利差が開けば、金利の高い通貨が買われ、低い方は売られます。アメリFRBのパウエル議長も、今後も利上げはしていくと表明しています。アメリカが金利を上げるなら日本も上げないと円が売られるのは当然です。しかし、黒田さんは頑として上げませんと言っているんですから、どんどん円安になってくださいと宣言しているに等しいわけです。
 ……これにさらにウクライナの戦争で、たとえばそば粉はこの秋から輸入ものは全然入ってこないらしい。そば粉の半分はロシアとウクライナから輸入しているらしいんで、立ち食いそば屋さんが今そば粉の確保で大変らしいんです。だからね、秋から、立ち食いそばは一杯千円ですよ(笑)。

 で、これ、あまり誰も言っていないようなんですが、500兆円を超えている国債残高は、先ほど述べたようにもちろん日銀のファイナンスなんですけど、この500兆円超の金額を民間銀行に流したわけですよね。そのお金はいったいどこに行っているのかということなんです。アベノミクスの当初の虫のいい想定では、製造業とか一般企業に渡って、設備投資をやって、景気がものすごくよくなるという話だった。ところが、やってみたら(企業の)資金需要が全然なかったんです。そこでこの500兆円を民間銀行はどこかにおいておかないといけなくなって、日銀の当座預金口座に入れているんです。これ、本来は法定準備金として各銀行が日銀に開設した、法律でつくることが決められている口座なんですが、そこに積み立てられているんです。法定準備金自体はおそらくは13兆円くらいなんですが、アベノミクスで流したこの500兆円、計算したら540兆円でしたが、そのまま日銀の当座預金にただ積まれているという、驚くべき状態がわかったんです。こんなことは歴史上初めてだと思いますが、市中(マーケット)に全く流れていないんです。
 その540兆円、今のゼロ金利政策とかマイナス金利とかをやっていますが、日銀が金利を上げれば、この540兆円にも利子をつけないといけないんです。国債を普通の状態にしておいても利回りとして2,3%の利子はつけないといけないと言われていますが、ここにも同じように2,3%つけないといけないわけです。そうすると、それだけで10兆円かかるんです。日銀が保有するETF(株式)でも株価が下がれば評価損が生じるかもしれない(損益分岐点日経平均株価水準で2万円前後)。それから国債も価格が下がって損失が出ると。これで日銀が債務超過になるおそれがあるということなんですが、その前に、日銀が金利を引き上げれば、日銀当座預金金利がかかって、これで日銀は債務超過になってしまうんですね。なので、黒田さんは構造的に言って、絶対に金利を上げることはできない。これは不可能なんです。……

 問題の発言があった講演で、元総理は「(政府の)1000兆円の借金(国債)の半分は日銀が買っている」「『日銀は政府の子会社』なので(返済の)満期が来たら、返さないで借り換えて構わない。心配する必要はない」と言っているようです。

 「日銀は政府の子会社」という認識もひどいと思いますが、その続きの「国債の満期が来たら、返さないで借り換えろ」はもっとすさまじい。子どもの頃から何でも不始末の尻拭いは誰かがしてくれてきたからこういうことが言えるのでしょうか。しかし、これは学校の宿題をばあやにやってもらうのとはわけが違います。こんなデタラメなことを言われても、元首相からありがたい(有り得ない!)講話をいただいたと、会場では拍手をするのでしょうか。我々もいいかげん目を覚まさないといけません。




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沖縄復帰50年 あるハンスト

 1972年5月15日に沖縄は日本に「復帰」しました。それからもう半世紀です。先月28日には衆議院で復帰50年についての決議が上げられました。しかし、「強い沖縄経済と平和創造の拠点としての沖縄をつくる」という見出しには、今さら感しかありません。「惰性」と言ってもよいこの施策と切り口。千葉県の田舎に住んでいてもそう感じるのですから、沖縄の人には言わずもがなでしょう。中身を一読して、「万国津梁の魂*」とか「世界を魅了する」とか、いくら国会決議とはいえ、やってることとの落差、その大言壮語ぶりにはむなしさを覚えます。
*1458年に琉球王国尚泰久王が鋳造させた首里城正殿の梵鐘は、通称「万国津梁の鐘」と呼ばれ、表面には琉球の海洋国家としての気概が刻まれていることから、海外に雄飛する沖縄・琉球の象徴として引用されるとのこと。

【全文あり】沖縄の日本復帰50年決議が可決 首相「基地負担の軽減に全力」衆院本会議 - 琉球新報デジタル|沖縄のニュース速報・情報サイト

 9日から沖縄県出身で東京の大学院で学ぶ元山仁士郎さんが首相官邸前でハンストをしています。復帰50周年で衆目を意図した行動と思いますが、何とも言えない切なさを感じます。5月9日付の毎日新聞朝日新聞の記事の一部です。

沖縄出身の大学院生が首相官邸前でハンスト 辺野古移設の断念訴え | 毎日新聞
辺野古移設断念求めハンスト 復帰50年「祝える状況なのか」:朝日新聞デジタル

毎日新聞
……元山さんは▽辺野古移設の即時断念▽普天間飛行場の数年以内の運用停止▽日米地位協定の運用にかかるすべての日米合意の公開と、民主的な議論を経た見直し――の計3点を政府に求めている。声明文で「50年前も現在も基地問題は変わっていないといっても過言ではない。果たしていつまでこの状況が続くのか。私たち沖縄の人々が抱える基地問題は、日本に住む人々に忘れられてしまったのだろうか」と訴えている。
 元山さんは報道陣の取材に対して「果たして沖縄は日本に復帰して良かったのか。むしろ良くなかったのではと言わざるを得ない。ハンストを決めたのは、そういう状況を日本に住む人に問いたいから。沖縄を好きな人は多いと思うが、観光だけでなく基地問題も一緒に考え、受け止めてほしい」と話した。

朝日新聞
……元山さんは9日、復帰50年について「祝える状況ではないと思う」と指摘。県民投票で約7割が「反対」した後も埋め立てを続けることをはじめ、沖縄の声が日本政府に尊重されていないと説明した。「これで復帰50年を迎えられるのか。復帰後は沖縄と米国の間に日本政府が入りスポンジのように吸収することで、沖縄の声が(米国に)届かなくなっている」と訴えた。
 ハンストは官邸前のほか、10日以降は自民党公明党の本部前でも午前10時から深夜を基本に続ける。15日は移動を挟んで、記念式典がある沖縄の会場前でも午後に実施する予定。口にするのは水と塩だけで、政権が要求を受け入れるか、医師による体調判断が許す限り続ける。コロナ禍のためデモや集会など大勢の人を集める必要がない形を選んだと説明している。

 辺野古の基地建設は、軟弱地盤や工期はもちろん、そもそも基地として使える代物かどうかにまで、アメリカ側から疑問の声が出ているのですから、何らかの見直しの動きが出てもおかしくありません。しかし、そうした懸念は一顧だにせず、民意を無視して、ひたすら機械のように海に土砂を投入し続ける。そこにあるのは政府のメンツだけです。敗戦濃厚なのに撤退できない軍と同じものがあります。
 惰性だけという意味では、北朝鮮拉致問題も実は何もやっていないのに、「内閣の最優先課題」と言い続け、被害家族や関係者はじめ、多くの人を落胆させ続けています。この間、関係者が何人か亡くなりました。政府は不作為のまま自然消滅を待っているのでしょうか。人気取りだったとはいえ、20年前の小泉政権のときには政治は動いたのです。動かざるをえない力が20年前には働いていたとも言えますが。
 
 積年の諸課題はこうしてやり過ごし、先送りされているものが目立ちます。もちろん、領土問題など、先送りした方が賢明な場合もありますし、最前線に立つ人の中には決して惰性に陥ることなく苦悶しながら実務を担っている人がいるかもしれません。しかし、多くは諦めと刹那主義に染められていると思います。
 ハンストをして、これでどうなると、すぐに「結果」には結びつけられません[元山さんたち(=あえて複数にします)は百も承知でやってるのですから失礼な話です]。しかし、ここ十数年の日本政治は度を超えてひどい。劣化と堕落がすさまじい。それが国民に与え続ける失望感、「どうでもいいよ」感は深刻だと思います。元山さんたちの行動は、だからこそ貴重です。見ているだけで本当に申し訳なく思いますが、しかし、敬意をもって見ています。



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「日銀は政府の子会社」発言

 日本国・第90・96・97・98代内閣総理大臣で、現在某党の憲法改正実現本部の最高顧問を務め、カザフスタンのナザルバエフ大学名誉教授まで(よくは知りませんが)拝命する御仁が、5月9日、「日銀は政府の子会社だ」と発言したそうです。さすが、大学時代、法学部政治学科であるにもかかわらず、必修の政治学の授業に一度も出席されなかったお方です。経済学の授業にもあまりお出にならなかったのでしょうか。日本銀行がホームページで「日本銀行の自主性」について解説していますが、世の常識や素養を欠いたまま一族の七×七×七光りで為政者になってしまった方には、ほとんど意味のないことのようです。
「日銀は政府の子会社」安倍元総理の発言に波紋 | TBS NEWS DIG
日本銀行の独立性とは何ですか? : 日本銀行 Bank of Japan

 Dr.ナイフさんのTweetで知ったのですが、2020年2月5日に小川淳也衆院議員が国会質疑でこんなことを話しています。これは黒川弘務・東京高検検事長(当時)の定年延長が問題になったときの話です。
https://twitter.com/knife900/status/1328660519830450179
https://kokkai.ndl.go.jp/minutes/api/v1/detailPDF/img/120105261X00720200205
予算委員会会議録 30-31頁)

……少し前なんです、話題になった、これはアメリカの研究者の作品なんですが、『民主主義の死に方』っていう作品があるんですよ。ソフトなファシズムは民主主義の顔をしてやってくるんだそうですね。どれも例外なく、中立機関の人事に踏み込むんだそうです。そして長年不文律とされてきたものを踏み倒すんだそうです。日本で言えば、(内閣)法制局、検察、裁判所、……本来自律的に行ってきたんですよ、この辺の人事は…。健全な民主主義機能を保つために。そこに(安倍政権は)相当踏み込んできてます。

 もちろん日銀の総裁人事は検事総長の人事とイコールではありません。しかし、今の黒田氏を選んだのは時の内閣ですから、国会の同意を経ているとはいえ、アベノミクスを唱えて黒田氏を据えた時点で、政府と日銀が「二人三脚」で進むことを宣言したのは確かです。しかし、この「二人三脚」を、この元総理は対等な協力関係だとは思っていない。自分を「立法府の長」と言ってしまうくらいですから、権力分立や政治的中立にまるで関心がないわけです。日銀の総裁を選んだのは自分だから、自分は本社の社長、日銀総裁は子会社の社長くらいにしか思っていないのだろうと想像されます。黒田総裁の方もたぶんそう思ってるから怒りもしないでしょう。これでは円安は止まりません。

 かねてよりアベノミクスを「アホノミクス」と批判してきた経済学者の浜矩子さんが、核共有をはじめ、各地の講演会で気勢(奇声?)を上げる(発する)この元総理を、今度は「アホノミクスの大将」と呼んでいます。

浜矩子「アホノミクスの大将率いる軍備増強論者たち ウクライナに便乗する不謹慎さに唖然茫然」〈AERA〉 | AERA dot. (アエラドット)

 もちろんこの「大将」は、「中将」「少将」などという軍隊の階級や長の意味ではなく、「旦那」や「マスター」の類いと同様、戯れた代名詞なのでしょうが、小生にとって「大将」は親愛の情と尊敬の念を込めた呼び方なので、この元総理をこう呼ぶのには抵抗があります。とはいえ、当人に「国賊」「売国奴」と呼べるほどの「気骨?」も感じませんし…(愛国でも売国でも、どっちにしても身が危うくなったら「病気」におなりになるでしょうから)。まあ、呼び方はどうあれ、こうした発言を、なおもありがたく拝聴しようと各地で人が集まるのですから、本当にげんなりします。講演会に行くと手当でも出るのでしょうか?

 弁護士の郷原信郎さんの解説動画もご覧ください。
【安倍元首相「日銀は政府の子会社」発言の、何がどうトンデモナイのか!?】郷原信郎の「日本の権力を斬る!」#145 - YouTube



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